色々な野菜があるように、人にも色々な人がいます。
我々人間には、理解できない人や、自分と同種でない人を敵対視する傾向があります。
これは、人間が同種の者を仲間だとみなし、異種の者を敵だとみなすことで、長い歴史の中で生き残ってきたことに由来するものであるようです。
無関心期の人を相手にする時のヒント
生活習慣の話を患者さんにしていると、一定の割合で無関心、もしくは敵対的な言動をとってくる人に出会います。
行動変容のステージモデルで言えば「無関心期」に属する人たちです。
日経ビジネスオンラインに、この無関心期の人とのコミュニケーションを理解する上で参考になりそうな面白い話がありましたのでご紹介します。
マツコさんに学ぶ、異質な人たちとの接し方:日経ビジネス電子版
「カテゴリー」分けの自動思考
記事では、人間がカテゴリー分けをする生き物であることを説明しています。
人間の脳は「カテゴリー」に分けてものごとを理解しようとするクセがあります。これは一種のエネルギー節約法で、「一括りにすることで、大体わかったつもりになる」わけです。
確かにカテゴリー分けをすることでいちいち考える時間を使わず、半自動的に理解したつもりになる、ということは誰にでもあります。
これを「思考停止」ともいいますが、この「思考停止」は本当に自動的に行われることが多く、本人に自覚がないことがほとんどです。
敵か味方かというカテゴリー分け
また、このカテゴリー分けの根源的なものが、敵か味方か、という分類であるとのこと。
このカテゴリー分けで、最も原始的なものが「敵か」「味方か」という分類です。長い人類の歴史の中で、「目の前の相手は、敵か味方か」という判断は生命にかかわる大問題でした。そのため、私たちは生まれながらにして、そういう分類をするクセがついています。困ったことに、このクセと偏見が組み合わさると、敵を攻撃しようとする衝動につながってしまうのです。
人間が生き残るために存在する敵か味方かという自動分類思考。
これは、我々医療者にも患者さんにも共通する特性です。
誰にでもあるということは、誰もが課題として持っている、ということでもあります。
つまり、医療者側にも敵味方でフィルターをかけてしまう場合があるということを知っておき、自制(自省)するきっかけにできると良いでしょう。
偏見が加わることで攻撃性に発展する
記事によれば、特に、思い込みの強さ=偏見が加わると、敵(自分の味方ではない)とみなした者に対する攻撃性に変化するとのこと。
これは患者さんだけでなく医療者にも同じことが言えます。
そのため、患者さんにも医療者にも一定の割合で、他人を敵とみなしやすい人がいると考えておいてもよさそうです。
恥ずかしながら、わたしもそうなってしまうことがあります。
わかっていても・・・ということはあるものです。
いずれにしても、「目の前の人は自分の敵」だと感じれば、攻撃的な衝動が発生するのが人間のサガだということです。
自由と平等の国とうたわれるアメリカでもこの衝動を克服できていないことが先の大統領選で判明しました。
少し引用しておきます。
敵か味方かに分類し、敵に対して偏見をもち、その偏見を理由に激しく攻撃する。これは人種や文化に関係なく、人類が根源的に抱えている特性だと認識してください。政治家は、こうした特性を利用して票を集めます。わかりやすい例がドナルド・トランプ米大統領。彼は移民に対する偏見を煽って白人中流層の支持を集めて大統領になりました。現代でも、先進国でも、こうした人類の特性は脈々と受け継がれているのです。
敵味方の区別は曖昧なことが多い
ただし、記事では敵味方の区別は曖昧だとも述べられています。
この「敵か味方か」という分類は非常にいい加減で、その場の状況に応じてクルクル変化します。それまでお互いに争っていたのに、共通の敵が出現すると「昨日の敵は今日の友」とばかりに団結してしまう。
(中略)
「括り方次第で、敵にも味方にもなる」わけです。もし宇宙人が攻撃してきたら、現在対立している国や民族も地球人として団結することでしょう。
敵の敵は味方、というやつです。
先ほどまで敵だと思っていた人とも、新たな共通の敵が見つかれば、味方としてやっていく。
そんな戦争は人類の歴史の中でも掃いて捨てるほどあるので、これもやはり人間や人間の集団には普遍的な性質だと考えられます。
つまり、あなたも患者さんも、敵だと思ってしまっている相手に対して、なにかのきっかけで考えを改める可能性があるということですね。
だからこそ、あきらめない、ということが大事になるかもしれません。
患者さんと医療者の間に共通の敵が設定されているか
いずれにしても、敵だとみなしやすい異質な人との間では、共通の敵(というか目標)を見つけるというのは重要です。
先ほど述べたように共通の敵を見つければ味方になれるからです。
医療者と患者さんのコミュニケーションでは、この共通の敵が「病気」になるのが一般的ですね。
病気にならないよう、こういう治療をしましょう、という中に「生活習慣の改善」があるわけです。
このように病気を共通の敵だという認識を持つためには、患者さん自身に「自分は病気である。病気になったのは自分の生活習慣が原因である。」という認識がないといけないわけですが、患者さんがなかなか病気を受容できないと、病気を共通の敵として設定できなくなります。
この認識がある人(医療者)と、認識がない人(患者さん)という違いが、相手を自分とは違うカテゴリーに属する人とみなすことにつながり、敵対的な関係に発展しうるものと考えられます。
患者さんからは、「医療者が自分のことを考えてくれない、尊重してくれない」という話をよく聞きます。
また、一方で医療者からは「あの患者さんは全然自分が病気であることを理解してくれない」という話をよく聞きます。
つまり、どちらもが相手のことを自分とは違う「異質な人」だと考えているわけです。
特に思い込みの強い人、疑い深い人では、ちょっとした異質性を感じるだけでも相手が敵になってしまうこともよくあります。
病気を深刻に捉えていない患者さんと医療者の関係では、そもそも共通の敵が設定されておらず、むしろお互いを敵とみなしているケースすらあるわけですから、こういうときには絶対にコミュニケーションがうまくいくわけがないのです。
異質な人を相手にする時に大事なこと
では、このような異質な相手とうまくコミュニケーションをとるにはどうしたらいいのでしょうか?
異質な人たちを相手にする時に大切なのは、その人たちを一括りにして「敵」と見なさないことです。(中略)人は、共通点が見つかると親しみを感じて打ち解けやすくなります。こうして、個別にコミュニケーションをとっていくことで、異質な人たちの集団を切り崩して、自分の味方に巻き込んでしまいましょう。
記事ではコミュニケーションの個別性が大事だと述べられています。
なんのために個別のコミュニケーションをとるか、といえば、自分と相手の共通点を見つけるためだとのこと。
共通点が見つかれば、異質な人だとみなさなくなり、この人は敵ではない、という認識に変わるからです。
病気の話だけではなく、患者さん個人に目を向け、その人に関心を寄せることが、お互いを味方にするためには重要であり、医療者にはそのスキルが要求される、ということです。
このための方法として、記事では三点セットのアプローチが有効だと述べています。
異質な人たちにアプローチしていく際には、 「①ギャップトーク ②ぶっちゃけ話 ③親身に話を聞いてあげる」という三点セットを行うと効果的です。
少し例をあげながら、説明していきます。
ギャップトーク
ギャップトークとは、敵だと思っていた人に意外といいところがあると感じると、人はそのギャップに対して過大な評価をする、というものだそうです。
これは医療の現場でも非常に有効であることが多いというのが個人的な印象です。
こいつは自分が言われたくないことを言ってくる奴だと警戒している人(例えば「禁煙」とか「運動」とかです)は、その雰囲気が顔に表れていることも多いです。
また、急性期で、まだ本人に十分説明がされていなかったり、医師や看護師などの医療スタッフに対する不満がある場合も同様です。
こういう時には、相手を(場合によっては病院全体を)敵だとみなしていることがあります。
そんな時に、疾病管理の話を始めたり、リハビリの導入をするのは逆効果で、むしろ敵対感を高めるだけになりかねません。
人によっては、ダンマリを決め込むなど、子どものような態度で応戦してきたり、その場は我慢して後で病棟の看護師さんや他のスタッフに怒りをぶちまけてみたりするケースも多々あります。
敵対的な態度というと、怒るとか悪態をつくというものだと思っている人も多いのではないかと思いますがその他にも
- 無視する
- 聞き流すような態度をとる
- 表情が硬くなってくる
など色々なパターンがあります。
共通するのは、
なんだかうまくコミュニケーションがとれていないという違和感
です。
相手からこのような敵対的な態度を感じ取った場合、まずはじめに相手の目線まで腰を下ろし、目を合わせて敵対心のないことを示しましょう。
そして「今回の入院は大変でしたね」とか「ご病気になってさぞご不安でしょう」とか「お加減はいかがですか、少し楽になったのなら本当によかったですね」などの優しい言葉をかけてみて下さい。
あるいは、不満そうな表情や「話す事などない」などのリアクションがあった場合は「何かご不満に思っていることがあれば是非教えていただけませんか」などと丁寧な応対をしてみましょう。
すると、意外とホッとした表情になり、その後、不満に思うことを吐きだしてくれる方も結構いらっしゃいます。
すると、敵対的な態度がなくなり、話が進みやすくなったり、コミュニケーションが取りやすくなります。
これは病院特有のギャップトークでしょうが、効果的なことが多いので、日頃から心掛けておくと有効です。
ぶっちゃけ話
相手の本音を引き出すためにこちらの本音を先に話すぶっちゃけ話も有効とのこと。
医療シーンではシチュエーションによっては使いにくい場合もありますし、うまく使わないと思わぬトラブルの種にもなるので注意が必要ですが、個人的に効果はあると思います。
個人的によくあるのは、他のスタッフに対する不満をぶつけられた時など、病院の対応として申し訳なかったという気持ちが自分にはあることを正直に述べることです。
病院として謝るのではなく、自分個人として病院が至らなかったことを申し訳なく思う、という気持ちをぶっちゃけるのがポイントです。
そういう気持ちが微塵もない場合は逆効果になるのでおススメしませんが、患者さんは病気だったり手術後だったりして、実は不安であることは間違いないため、その気持ちに寄り添えると自分の感情をコントロールしやすいでしょう。
親身に話を聞いてあげる
いわゆる傾聴で、どの医療コミュニケーションの教科書を開いても、必ず載っている項目でしょう。
先ほどのぶっちゃけ話の最後にも書きましたが、医療者にとって大事なのは、相手が病気であり、そうは見えなくても不安に思っているケースが大多数であると認識しておくことです。
ただ話を聞くのではなく、相手の立場に立ち、不安や不満を理解するように話を導いたり、相手のこれまでの人生やどういった考えを持つ人なのかということを理解したいという気持ちで臨むことが大事でしょう。
これを上手く行う1番のポイントは相手の話を楽しむということかと思います。
そのためには普段から色々なことに興味持ったり、試しておくのが大事です。
自分もやったことがあれば、話題も弾みやすいですし、知識があるだけでも話を膨らませやすいからです。
話題のフックとなるものを自分の中に多く持っているほど、無関心期の人にアプローチできるきっかけが多くなります。
また知らない分野の話でも、本当に興味を持って聞けば意外と楽しく聞けるものです。
こちらが楽しんで聞いていることは、相手には伝わりますから、これも親身に話を聞くという範疇に入るのではないかと思います。
これが初めのほうに言ったコミュニケーションの個別性です。
その根底にあるのは、あなたのことを理解したい、そしてあなたと理解し合いたい、という態度です。
最後に
これをするのがとても上手なのが、マツコ・デラックスさんです、というのが記事の最後にありましたが、なるほど確かに。
マツコの知らない世界をそういう視点で観てみるとコミュニケーションの勉強になるかもしれませんね。
ではでは。