心臓リハビリテーションのまにまに

心臓リハビリテーションを10年以上している心リハ太郎が日々考えたり思ったりしているエビデンスのあることないことをつらつらと書いています。

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2分間歩行や3分間歩行は6分間歩行試験の代わりになるか?

こんにちは、心リハ太郎です。

質問箱に頂いた質問に長文でお答えしたのでこちらにも。

6分間歩行試験の代わりに2-3分の歩行で代用できるか?

というご質問です。

この話を考えるには6分間歩行試験を行う目的をはっきりさせることが重要です。

6分間歩行試験の目的は?

心疾患における生命予後指標や運動耐容能の指標として6分間歩行距離を用いるのであればご質問の答えはNOになります。

何故なら6分間の全力努力歩行距離と予後あるいはpeak VO2が関係するのであって、2分や3分ではその関連が不明だからです。

生理学から考えてみる

運動生理学的な観点から考えると、6分間歩行のような定常負荷(一定の速度で歩くと仮定すればです)に対して代謝・呼吸・循環が安定してくるまでに2-3分くらいかかると見ておくのがよいとされています。

CPXのウォームアップが3分間に設定されているのはこれが理由です。

代謝の面でいえば、数秒から数十秒のうちに骨格筋のエネルギー源が筋内にあるATPからクレアチンリン酸を用いたATP産生に変わり、その後乳酸系の嫌気性代謝(無酸素運動)が働き始め、ミトコンドリアでの好気性代謝(有酸素運動)へと引き継がれます。この反応が安定してくるのに2-3分かかるのです。

また運動に対する体内の変化から一回換気量や呼吸数などの呼吸調節、心臓の一回拍出量や心拍数などの循環調節が行われますがここには負荷に対する30秒から1分程度のタイムラグが生じます。

ATを大きく超えた歩行は6分間続かないので6分は絶妙なライン

6分間歩行試験では被験者に最大努力歩行を行わせます。
健康な若年者など高い運動耐容能を持つ人では最大努力歩行でもATを超えませんが、循環器や呼吸器、骨格筋などの酸素搬送系に何らかの機能低下を有する人であれば、最大努力歩行ではATを超えますし、場合によってはRC近傍程度の負荷がかかります。

RCに近い負荷では代償的な強い換気亢進が生じ、かなりの息切れ、疲労感が出現するため、多くの人では2-3分を超えて同じスピードで歩き続けることは困難になります。

逆に、2-3分の歩行負荷試験だと、RCに近い負荷であっても、代謝や呼吸、循環の調節が安定する前に終わってしまい、酸素搬送能の低下を捉えられない可能性があるということになります。

もしATを大きく超えRCに近い強度で歩いていれば、はじめの1-2分は非常に速いスピードで歩いていたとしても、しばらくしたら歩行速度が落ちてATレベル近傍まで負荷が下がらなければ歩行を持続することが困難になると思われます(特に6分間歩行試験の対象となる高齢者や心不全患者さんにとっては)。

そう考えると6分間というのは、しっかりと歩行速度を上げて追い込めさえすれば、酸素搬送能の落ちた人の有酸素運動能力や運動耐容能を推察するのには長くもなく短くもない絶妙なラインだと個人的には思っています。

ですから、歩行ではATに達しない程度の運動耐容能がある人に対しては、6分間歩行試験は天井効果が生じ、あまり意味をなさない負荷試験になるでしょう。

心不全標準プログラムも参考になりますよ

ここを勘案してよく考えられているのが、日本心臓リハビリテーション学会が出している心不全のリハビリテーション標準プログラム(2017年度版)です。
http://www.jacr.jp/web/wp-content/uploads/2015/04/shinfuzen2017_2.pdf
リンク先の9ページをご覧下さい。


ここで、心不全急性期の段階的な歩行負荷試験が40m(ゆっくり歩いて約1分)、80m(約2分)、80m×3(約2分×3回)となっているのは、もし歩行速度がAT強度を超えていても循環・呼吸動態が破綻しないだろう約2分のラインを超えないように設定されていると考えられます。

2分というのはそういう時間なのです。

2分歩いて血圧を測り、すぐまた2分歩いて、というのを3回行うと合計6分のインターバル歩行になります。
これを異常なくクリアするといよいよ有酸素運動の入り口である6分間歩行試験へ入り、そこでも異常なく300m以上歩行できれば晴れて日常生活復帰、有酸素運動デビューとなるわけです。

2-3分歩行で何を見たいか考えてみよう

ここまでお読みいただけば、ご質問者様が6分間歩行試験で何を見たいかという目的を2-3分の歩行で達成できるかを考えていただけるようになったかと思います。

で、翻ってご質問に戻りましょう。

マンパワーや時間の問題を解決する方法を考えてみる

6分間歩行試験を行うと多分10分間くらいはマンツーマン対応で1人が患者さんに張り付くことになります。

人手不足の問題でこのようなご質問をされていらっしゃる場合、どうしたらマンパワーを減らせるかを考えるのも1つの解になるはずです。

生命予後指標の善し悪しのみをみるなら

さて、わたしのいる施設ではこれを逆手にとって6分間歩行試験の代わりに320m歩行を快適ペースで行い、その所要時間を計測しています。

320mなのは単に周回コースが1周80mである都合というだけです。

320m歩行に要した時間から歩行速度が算出できますので、心不全の予後指標である6分間歩行距離300m、つまり分速50mで歩けていれば少なくとも予後は悪くはなく、歩行能力も保たれているとみて有酸素運動の導入を考慮するというプロトコールで運用しています。

300mのコースが用意できるのであればそれでOKでしょう。


この方法は本来の6分間歩行試験とは大きく異なります。
が、このような目的であれば使い方としては間違っていないかなとも思います。

この方法のメリットは患者さんが独力で300m歩ける方なら6分間べったり張り付かなくてもOKとなり、人手が減らせるということです。

デメリットは方法的に正確な6分間歩行距離は算出できないため研究目的や運動療法のアウトカムとして用いることができないということです。

できれば6分間中のSpO2や心電図、Borgスケールはなるべく確認しておくと臨床的にはよいでしょう。

最後に

ご質問の回答になったかどうかはわかりませんが、以上が回答になります。

一度ご自身でも6分間歩行の意義を考えてみて下さい。

ではでは。