患者さんの血圧を測ると血圧計の脈拍数がモニター心電図の心拍数より少ない時があります。
こういう時に患者さんの身体で何が起こっているのかを考えた事はありますか?
また脈が弱い時や脈が飛んでいるときには何が起こっているのでしょうか。
実は脈拍から読み取れることは多く、そこには重要な情報も隠れています。
脈拍の変化や異常についての基本的な考え方と対処法を知ると臨床でのリスクマネジメントの質が一段上がります。
脈拍とは
心臓が収縮して身体に血液を送ることを心拍といい、心拍に合わせて血管を流れてきた血液が血管の壁を押し広げる圧力を脈(pulse)といいます。
基本的には、心臓が1回収縮すれば1回の脈が感知されます。
脈拍とは、この脈のリズムのことです。
脈拍が乱れるというのは、脈のリズムが一定ではないということですね。
脈拍が大事なのは、心臓から血液がしっかり流れてきていることを簡単に確認できるツールだからです。
脈拍の測定部位と方法
脈拍を確認できるような皮膚表面に近いところを通る血管には、総頸動脈、上腕動脈、橈骨動脈、大腿動脈、膝下動脈、足背動脈、後脛骨動脈などがあり、その中でも脈拍を測りやすいのが上腕動脈と橈骨動脈です。
脈拍を測る部位は、こちらのサイトが図入りで分かりやすいです。
脈拍は指での脈拍触知を使って測定するのが基本ですが、自動血圧計でも脈拍数の形で脈をみることができます。
最近では病棟やリハビリ室でも自動血圧計ばかり使っているところもあるかもしれませんので自動血圧計の大まかな仕組みも覚えておきましょう。
この仕組みを知っているか知らないかで、リスクマネジメントの質が大きく変わります。
自動血圧計の脈拍測定
自動血圧計の多くは上腕動脈で検知できた脈から脈拍数(1分間に何回くらいのペースで脈が打っているか)を調べ、血圧と一緒に表示します。
自動血圧計の中には、手首で血圧を測定するタイプのものもありますが、手首型は手首を上げる高さによって測定値が影響されやすく、正確な測定ができにくいと言われているため、なるべく上腕で測るタイプの血圧計を使用しましょう。
これは自宅での血圧・脈拍測定でも同様ですので患者さんには上腕で測るタイプの血圧計を勧めて下さい。
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自動血圧計は、カフ(血圧測定時に腕に巻く布の部分)を使って上腕動脈への圧力を変化させ、その時の血管の音や血流変化を基に脈を検知します。
カフの圧力が上腕動脈の収縮期血圧より高いときは、血管が潰されて上腕動脈の血流がなくなるため機械は脈を検知せず、カフが収縮期血圧と同じくらいの圧力になると血流が再開します。
このときは、まだ血管が押し潰されているため、血流は渦を巻いたような流れ方(不正流といいます)をして、血流音や血管への振動が起こります。
血圧計の脈拍センサーはこの音や振動などを拾っています。
徐々にカフの圧力が下がり、拡張期血圧よりもカフの圧力が低くなると血管が完全に開いて血流が全く阻害されず、音や振動が起こらなくなるために機械は脈を検知しなくなります。
つまり、自動血圧計では収縮期血圧(上の血圧)から拡張期血圧(下の血圧)までカフの圧力が下がる間に脈拍を測定しているわけです。
このように短時間での測定になるため、自動血圧計の血圧と脈の測定では脈が一定のリズムで起こることを前提に設計されています。
脈拍が一定のリズムでない場合は、異常な血圧を表示してしまう可能性が高くなるので、それを避けるため、体動やその他の原因でノイズが起こったとみなし、エラー表示を出す機械も多いです。
不整脈のある人に自動血圧計を使うとよくエラーが出るのはこういう理由です。
ただし不整脈がなくてもエラーになることがあります。その理由は後述します。
指での脈拍測定
指で脈拍を測る場合には、橈骨動脈を使うのが基本です。
上腕動脈で測定することもできますが、血圧計のカフと測定位置が重なるため、橈骨動脈を使った方が利便性が高いです。
橈骨動脈は手のひらを上に向けた時に、手首のしわのできるところと人差し指の延長線が交わるところから、少し肘側に移動したあたりでさわることができます。
指で脈を触知する際は、親指ではなく、人差し指と中指、薬指の三本を使い、敏感な指の腹の先で測定します(爪は立てないで下さいね)。
親指を使わない理由は、測定者本人の指の脈動が混じり、正確な測定ができなくなるとされるためです。
脈拍の測定法
1分間あたりに触れた脈の数が脈拍数です。
基本的には脈拍数は1分間フルに測った値ですが、もう少し短い時間の測定値から推定することもできます。
15秒間の測定ならカウントできた脈の4倍が、30秒間の測定なら2倍が脈拍数となります。
例えば、15秒で脈拍数が20回なら、1分間の推定値は4倍の80回という感じですね。
正確に脈拍数を測定したい場合は、1分間測定するのが基本です。特に不整脈の多い人では、かなり脈拍がばらけるため、正確に脈拍数を知りたい場合は1分間測る方が無難です。
ただし、運動直後の脈拍は1分以内に安静脈拍に戻ってしまうため、運動終了直後の10秒もしくは15秒程度の脈拍を測定して運動中の脈拍を推定するのがよいでしょう。
脈拍をみる場合は、数を数えるだけでなく、リズムは一定なのか、脈がばらける場合はどのようなばらけ方をしているのか、脈は強いのか、それとも弱い脈しか感じないのかなどを確認します。
ちなみに収縮期血圧が60mmHgくらいまで低下した時は橈骨動脈では脈を検知できなくなるため、総頸動脈、つまり首で脈を測ります。
総頚動脈でしか脈を触れないくらい血圧が低い時はほぼショック状態であり、緊急の対応が必要な場合さえあります。
このようなときは離床や運動療法は中止すべきであり、橈骨動脈で脈が触れなければ、「あ、今日は積極的にいくのはダメか」と思ってよいかもしれません。
心拍と脈拍の違い
心拍(心臓の拍動)とは、血液を送り出すために心臓が収縮するリズムのことです。
病棟やリハビリ室での心拍確認に使えるのは、聴診器とモニター心電図です。
聴診器で胸の音を聞くと、心音が聞こえます。これはそのまま心拍と考えてよいでしょう。
ただ聴診器で心音を聴くのはリハビリ室などでは人目もあり、なかなか難しいので心拍の確認にはモニター心電図を使うのが現実的です。
心電図では心臓の筋肉の収縮や弛緩に伴う心筋の電気的興奮をみています。
心電図の心拍1回は、心臓の筋肉が1回収縮した(電気的に興奮した)ということを表します。
これは水鉄砲のトリガーの部分が押されたことを感知するセンサーだと考えると分かりやすいです。
しかし水鉄砲を押しても、中に水が入っていないとき、もしくは壊れているとき(どこかに穴が空いていて漏れてしまうときなど)などは水がしっかりと出ません。
心臓も同じで、収縮はしていても血液がしっかり出せないことがあります。
この現象を拾い出すのが脈拍の確認です。
脈拍とは水鉄砲からでる水の勢いと考えて下さい。
心臓という水鉄砲が勢いよく水を出せないとき、脈拍は弱くなったり、検知できなくなったりします。
心電図では心拍が起こっているのに脈拍がないということは、心臓が動いているにも関わらず有効な血流を出せていない(空打ちしている)ということです。
これが思いのほか、心不全を増悪しやすくさせるなどの悪さをしている場合があります。
しかし、血圧計で血圧だけ、モニター心電図で心拍数だけにしか目が行かないと、脈がしっかりと出ていないという、心臓の働きを示す最も重要な所見を見落とすことに繋がります。
血圧計の脈拍数とモニター心電図の心拍数に差がある場合は、その差の分の心臓の空打ちがあると考えるのが妥当でしょう。
また、血圧計で測定エラーが頻発するときは脈が飛びまくっているということなので、これが何故なのかを考えておく必要があります。
血圧計で血圧がうまく測定できないときは
自動血圧計が血圧を測定できずエラーを返してくるパターンは
- 脈が乱れている場合
- 脈が検知できない場合
- 上の両方が合わさった場合
のいずれかです。
脈が乱れている場合
1の脈が乱れている、というのは一般的に不整脈と言われるもので、代表的なものには心房細動(Af)や心室性期外収縮(PVC)、上室性期外収縮(PAC)などがあります。
上の3つの不整脈(Af/PVC/APC)は心臓自体のリズムが乱れるため、機械が脈なのかノイズなのかを判別できず、血圧を決定できないために結果的にエラーを返してきます。
脈が検知できない場合
2の脈が検知できない、というのはあまり起こっては欲しくない事態です。
原因としては致死的不整脈と著明な心ポンプ機能低下があり、その原因には以下のようなものがあります。
- 致死的不整脈
- 心室頻拍(VT)
- 心室細動(VF)
- 徐脈
- 心ポンプ能低下
- 脱水や出血などの循環血液量低下
- 収縮能低下
- 拡張能低下
- その他の心臓の異常
- 末梢血管の過度拡張(自律神経障害やアナフィラキシーショックなど)
VTやVFは心臓の収縮が速すぎて、心臓に血液が充満する前に次の収縮が起こるため、空打ち状態となり、有効な脈が生じないパターンです。
また徐脈は、心臓の収縮と収縮の間の時間が長すぎて、やはり血液が十分に送られてこず、有効な脈が生じないパターンです。
心ポンプ能低下についてはこちらで詳しく説明していますので、ご覧ください。
交互脈と言われる、強い脈と弱い脈が交互に現れるパターンも心臓のポンプ機能低下を示す所見です。
交互脈がひどい場合は、弱い方の脈拍をほぼ検知できなくなります。
するとモニター心電図では80拍なのに、脈拍は40拍ということも起こり得ます。
これは血流の配給という意味では徐脈となんら変わりありませんので、非常にまずい所見なのです。
血圧が保たれていれば脈拍を無視していいかと考えてしまっていた人もいると思いますので、その場合は是非一度考え直して欲しいところです。
両方が合わさった場合
AfやPVC、APCでもあまりに速い場合や頻発する場合は、やはり心臓が空打ちします。
すると有効な血流が末梢まで届かないため、その時の脈は飛んでしまうか、非常に弱くなります。
いずれにしても血圧計がエラーになる場合は、有効血液量は減っている可能性が高いということですので、見過ごさずにその原因と、対処法を考えることが大事です。
脈拍の意味
上でも触れましたが、脈拍を感知できるということは、自分が触っている血管まで血流が届いているということを意味します。
逆にほとんど脈拍を感知できない場合は、その血管まで血流が十分に届いていないということです。
例えば橈骨動脈では脈を触れないが、総頚動脈では脈を触れるということは、なんとか頭には血流が行っているけど、手先までは来ていないということになります。
脈拍が触れず、血圧も低い場合もしくは血圧が測れない場合は何らかの循環異常があると考えてよいでしょう。
特に昨日までは脈拍を触れたのに今日はダメという場合は、その原因を考えることなしに離床や運動療法を行うのは絶対にNGです。
このようなときは著しい心機能が低下していたり、状態が悪化している場合があるからです。
また歩行後や運動後に血圧低下を伴って脈拍が弱くなったり触れなくなる場合は、その人の心臓や循環状態が、かけた負荷に付いてこられなかった(つまり過度な負荷だった)可能性があります。
普通の感覚なら20-30mくらい歩くのは大した負荷には感じないかもしれませんが、非常に心機能の悪い人では、そんな軽い負荷にさえ心臓が付いてこない場合もあります。
また、弁の逆流などがある場合、負荷時間が1-2分を超えると急激に脈が触れなくなったり、上で紹介した交互脈が出現することがあります。
これは動き出した直後は問題ないけれど、身体を動かし始めたことで血液が循環しだすと弁の逆流が強くなり、循環動態が悪化していくというパターンの可能性が捨てきれません。
血圧低下(つまり循環動態悪化)の原因になる因子についてはこちらで詳しく述べています。
また、有効な血流が生じるかどうかには心臓内、心臓外の様々な因子が影響します。心臓病の患者さんに離床・運動療法を行うのであれば、心機能に関わる4因子を押さえておくのは必須です。
いずれにしても脈拍がほとんど感じられず血圧も下がっている時(あるいは測定できない時)は、何が血圧低下に関係するかを把握して、その後の対処を考えたり、負荷を調整する必要があります。
ものすごく心機能が悪い患者さんでは、治療を行っても血圧がどうしても高くならない場合もあり、このような方では脈を測ることが困難な場合もあります。
また、病気によっては上肢へ血流を送る血管が狭窄・閉塞している場合もあります。
こういう方では、脈拍という末梢への血流があるかどうかを確認するための重要なバイタルサインを使えないままに離床や運動療法を行わなければなりませんので、その他のバイタルサインや所見に厳重な注意を払うこと、また心機能などをなるべく把握しておき、起こりうる異常事態をあらかじめ考えておくことが重要です。
脈拍が飛ぶことの意味
血圧計だと血圧はある程度の数値が出ているのに橈骨動脈では脈が触れたり触れなかったりする時に、血圧の数字はまあまあだからいいや、と考えたりしていませんか?
あるいは歩行後や運動後に、1-2回目の血圧計の測定はエラーになり、何度か繰り返すと血圧が測れる時なども同様です。
こういう時も、なんか最初はエラーだったけど何回か測ったら血圧は大丈夫だったからいいか、とか安易に考えていないでしょうか。
血圧測定中に患者さんが動いたり喋ったりしたときは、ノイズが混じって血圧計がうまく脈を感知できずに測定エラーになることはあります。
しかし、それ以外でエラーになるのは、機械が脈を感知できない理由があるからです。
運動負荷などで循環動態に異常が生じ、それがしばらくすると元に戻るため、脈が触れるようになっただけかもしれません。
こういう時にしっかりと自分の手で脈を測っておくと、患者さんの身体の中で何が起こっているかを判別しやすくなります。
同時にモニター心電図で心拍(心拍数)も確認しておくと、理由を判別できる可能性がさらに高くなります。
なぜなら、はじめの方でお伝えした通り、基本的には心臓が1回収縮したら脈拍も1回起こるはずだからです。
そこにズレがあるのかないのかというのは、患者さんの心臓がどのような心臓なのか(特に動くとどういうことが身体で起こっているのか)を推察するためには大変重要な情報になりえます。
患者さんの心臓には個々人に違いがあり、様々なパターンが考えられるため、基本的な考え方を身に着けておく必要があるのです。
自動血圧計に頼るばかりでなく、日ごろから手首などで脈診を行う習慣をつけましょう。
また、患者さんに自宅で運動してもらう際には、脈拍計をつけてもらうのが有効です。
脈拍が飛ぶ人でなければ、運動時の心拍数を測れるため、脈拍計を使うと運動強度が低すぎたり高すぎたりせずに適切な強度で運動することができます。
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ではでは。