心臓リハビリテーションのまにまに

心臓リハビリテーションを10年以上している心リハ太郎が日々考えたり思ったりしているエビデンスのあることないことをつらつらと書いています。

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その関係は本当に因果関係?因果関係かそうでないかを見極める因果推論を身に付けられる『「原因と結果」の経済学』を読んでみよう!

こんにちは、心リハ太郎です。

統計学に詳しくない人の最も陥りやすいワナに、単なる相関や関連を、原因と結果だと思い込んでしまう、というものがあります。


新聞やテレビで、さも因果関係があるかのように語られていることが、データの作り方を見てみたら、とてもそこまではいえないだろう、とツッコんでしまう事例には結構な頻度で遭遇します。


学会発表などでも、ある事柄に関連が見られただけで、因果関係(原因と結果)のように語ってしまっている方もよくみかけます。


これは、統計学の基礎を全く教えていないという、日本における高等教育の悲しい現状のせいなのですが、それを打開するには自分で学ぶしかないわけです。


しかし、統計学は難しいと思い込んでしまっているために、統計と聞いただけで心理的な拒絶反応が出てしまう人も多く、なかなかリテラシー(読み解いたり自分で使う能力)を身に付ける機会がないというのも、もう一つの現状かと思います。

また、統計学の本はとても初学者には向かない、堅い内容のものも多いですよね。

肩肘張らずに読めるような、統計学の基礎の基礎の部分を、誰にでも分かるように易しく解説してくれる本はなかなかありません。

「原因と結果」の経済学は超オススメ

しかし、最近、誰にでもオススメでき、しかも非常に優れた統計学の入門書を見つけました。

「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法です。

本書は、教育経済学者の中室牧子さんと、医師で医療経済・政策学者の津川友介さんが、「因果推論」(因果関係があるのかどうかを見分ける方法論)を、なるべくわかりやすく、入門の入門として、難しい知識なく読めるように書いてくれています。


タイトルに経済学とついてはいますが、経済学だけではなく、医学や疫学、日常生活など様々な場面で役に立ち、そのうえ因果推論について知ることで、理性的な読解力や判断力を養うための基本を押さえられる、どなたにもおススメできる内容になっています。


特に、著者の1人である津川友介さんは、医療者であり、ビッグデータを扱ってこれまでの医療の常識を覆すような様々な論文を発表されている方です。


例えば津川さんは2016年に、女性医師のほうが男性医師よりも患者の死亡率が低いというような驚くべき研究結果をビッグデータを使い、かなり慎重な方法で検討した上で、発表しています。
女性医師の方が、男性医師よりも患者の死亡率・再入院率が低いことが明らかに – 医療政策学×医療経済学

この論文はニューヨークタイムズなどでも驚きをもって紹介され、ニュースにもなったのでご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。


また病院間よりも医師間による医療費の違いの方が大きい、という研究も報告しています。
どの医師に診てもらうかで、かかる医療費が大きく異なることが最新の研究で明らかに – 医療政策学×医療経済学


このように津川さんは、ビッグデータを用いた医学研究の第一人者でもあり、統計に関するエキスパートでもあります。

このような医学統計の第一人者が、統計の基礎の基礎について、わざわざ分かりやすく説明してくれている本というのは、ありそうで実はなかなかありませんので、そういう意味でも大変おススメできる本です。

また、本書には医療関係者にも参考になる知見がちりばめられていますので、医療者ならば、ぜひこの本を手にとって津川さんの考え方に触れていただきたいところです。

因果推論とは

本書は、2つの物事に何らかの関係性がある場合を「相関関係」といい、相関関係には「因果関係」と「擬似相関」の2つがあるという説明から始まります。


少し引用させていただきます。

 2つのことがらのうち、片方が原因となって、もう片方が結果として生じた場合、この2つには「因果関係」があるという。一方、片方につられてもう片方も変化しているように見えるものの、原因と結果の関係にない場合は「擬似相関」という。擬似相関には何らかの関係が成り立っているものの、因果関係はない。

「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法 26-27ページより引用


しかし、2つの物事の関係が因果関係か擬似相関かを見分けることは、多くの場合難しいものです。


特に人間は自分の思いたいように思い、考えたいように考える傾向がありますから、擬似相関を因果関係と思い込んでしまうことは多々あります。


この思考の罠から抜け出すための思考法が「因果推論」であり、本書ではこの因果推論をどうやって行うかを何も知らない人であっても理解できるよう、非常にわかりやすく説明してくれています。


因果推論を行うには、まず3つの疑問を持つところから始めるとよいそうです。

因果関係を確認する3つのチェックポイント

本書の第1章では、因果関係を考える際には、まず次の3つを疑うよう書かれています。

  1. 「まったくの偶然」ではないか
  2. 「第3の変数」は存在していないか
  3. 「逆の因果関係」は存在していないか

です。

少し詳しく見てみましょう。

まったくの偶然

統計学的に有意である、というのは多くの場合はその結果が95%以上の確率で信頼できる、というだけのことであり、逆に言えば、数打ちゃ当たる、つまり単なる偶然である可能性は否定できないというわけです。


あれもこれも検定をかけてみて、あ、ここで有意差が出た、みたいなやり方は、本来ならNGということでもあります。


本書では、直接関連はないものの強い相関関係がある例として、ニコラス・ケイジの年間映画出演数と年間溺死者数などが示されています。


理知的に考えれば、この2つの事柄に直接的な関連があるとはとても言えませんので、まさしく偶然による擬似相関と言えます。

ていうか、こういう関連ってどうやって見つけてくるんでしょうかねえ。

第3の変数

医学研究でよく言われる交絡因子のことを第3の変数といいます。


お酒をたくさん飲む人に肺がんが多い、というデータが出たとします。
(これは単なる例え話ですから間に受けないでくださいね)


そうすると、

お酒は肺がんに関係している!(相関関係)

だからお酒を飲むと肺がんになりやすい!(因果関係)

という短絡的なものの見方をしてしまいがちです。


普通に考えれば、なんか変だな?と思うはずですが、自分で研究をする場合は「こんなところに相関があった!」なんて喜んでしまい、冷静な判断力を欠いてしまうがために陥りがちな罠です。


この場合、実はタバコをたくさん吸う人はお酒もたくさん飲む、という隠れた関係があることに気づいていないだけかもしれません。
(何度もいいますがこれは例え話なので真実かどうかはわからない話ですよ)


つまり

1.タバコとお酒が関係している
2.タバコと肺がんが関係している

という2つの別々の関係があるのだけど、タバコとお酒、タバコと肺がんがそれぞれ関係しているために、まるでお酒と肺がんに関係があるように見えてしまうタイプの擬似相関です。


こういう擬似相関には現実でも遭遇することが多くあり、このケースでは喫煙が「第3の変数」、つまり飲酒と肺がんのどちらにも影響を与えている、いわゆる交絡因子というものになります。


ですから、何かと何かの関連を調べる時には、第3の因子になりうるものをあらかじめ考えておき、その影響を取り除くように準備しておくことが大事になります。


このような第3の変数の存在を考慮せずに、ただ統計的に有意であったから、お酒を飲むと肺がんになる!みたいな直線的思考に陥らないことが大事なのです。

逆の因果関係

これは話が逆、というパターンです。

因果関係の原因と結果を取り違えてしまっている場合が、逆の因果関係に当たります。


本書では警察官の配備人数が多い地域では犯罪率が高いという例が挙げられています。


警察官の人数が多い地域では犯罪率が高い、という相関関係が得られたときに、警察官が多いから犯罪が増えるのだ!という論理展開には無理があります。

むしろ、犯罪が多い危険な地域だから警察官がたくさん配置されている、と考えた方が自然ですよね。


このように、原因と思ったものが実は結果で、結果と思ったものが実は原因だった、みたいなケースを「逆の因果関係」といいます。


このように因果関係を考えるときに実は矢印の方向が逆なんじゃないの?という思考法を持っておくことは、自分の研究の質を高めたり、他人の研究結果を誤解なく解釈するためには非常に大事なことなのです。

今日からあなたも因果推論をはじめよう

このように本書では正しく因果推論を行うために、どうやって研究を行えばよいのかを全編にわたって分かりやすく説明してくれています。


統計の勉強を始める前に、因果推論とはどういうものかを知っておくと、自分や他人が行なっている研究が本当に妥当性のある質の高いものなのかを判断する土台が完成します。


安定しない土台の建てた建物は非常に不安定です。

因果推論の考え方を知らずに行う研究というのは、あやふやで場合によっては何も分かっていないのと同じになってしまうことがほとんどです。


逆にしっかり土台を固めておけば、そうそう建物は崩れなくなります。

因果推論の考え方を身につけるということは、自分の研究の土台(妥当性)を固めることと同義です。

また、自分の研究では、どこまでのことが言えて、どこからは言えないのかもはっきりします。
(因果関係を調べられる研究方法ではないため関連が示されただけ、とかですね)


ですから、これから臨床研究を始めようという人には、ぜひ因果推論の方法を理解し、因果関係を示すための妥当性のある方法論を身につけていただきたいと思います。


因果推論自体は、元来そのフレームワークを学び理解するのがかなり難しいのですが、本書では非専門家や一般の人にも分かりやすく説明されていますので、導入編としては最適だと思います。


皆さんもお時間があれば是非ともご一読ください。


心リハ太郎も持っている因果推論のバイブル的な本がこちらです。英語かつ専門書なので、因果推論について真面目に勉強したい人にはよいでしょう。

Experimental and Quasi-Experimental Designs for Generalized Causal Inference

Experimental and Quasi-Experimental Designs for Generalized Causal Inference

また因果推論の提唱者の1人でもあるドナルド・ルービンによる書籍はこちら。
最近出版されたものなので新しい情報も多く載っています。

Causal Inference for Statistics, Social, and Biomedical Sciences: An Introduction

Causal Inference for Statistics, Social, and Biomedical Sciences: An Introduction


津川さんのブログで、本書の前半部分が無料公開されていますので、読むかどうか迷っている方は、こちらをぜひ読んでみてください。
『「原因と結果」の経済学』の無料公開! – 医療政策学×医療経済学

ではでは。