心臓リハビリテーションのまにまに

心臓リハビリテーションについて考えたり思ったりしていることをつらつらと書いています。

血圧低下についての考え方の基礎を知ろう


血圧が何を表すか考えたことはありますか?
特に、血圧が低いとはどういうことかを自分で考えられるようになるための基礎的な考え方を覚えましょう。

血圧の式を覚えよう

まず覚えて欲しいのはこの公式です。

血圧= 一回拍出量 × 心拍数 × 末梢血管抵抗
BP=SV × HR × PVR
一回拍出量×心拍数=心拍出量(CO)

一回拍出量 × 心拍数 は心拍出量です。
心臓が出している1分間あたりの血液量ですね。
つまり血圧には心臓が大きく関わるということを意味します。

また末梢血管抵抗とは、主に細動脈や毛細血管の収縮・弛緩による血圧調節機構のことです。
末梢血管を全て広げるとテニスコート1面分の広さがあると言われています。
ですので、血管の収縮や弛緩により、血圧は大きな影響を受けます。

上の式は血圧が、心臓が送り出す血液量と、末梢血管の収縮・弛緩により決定されているということを表しています。

ですので、あなたの前に現れた患者さんの血圧が低いとき、高いとき、また身体を起こしたり動いたりした後に血圧が下がるとき、上がるときは常にこの式を思い出すようにして下さい。

すると問題となるのが心臓なのか末梢血管抵抗なのか、もしくはその両方なのかが考えやすくなります。

血圧のDCM

さて、もう1つ血圧に関係する呪文、DCMを覚えましょう。

DCMとは
D: deconditioning(ディコンディショニング)
C: cardiac(心臓)
M: medicine(薬剤)
の略語です。

1つずつ見ていきましょう。

D: ディコンディショニング

ディコンディショニングは日本語で言うと廃用です。
横になってばかりいると、骨格筋だけでなく、循環系の廃用が起こります。

身体を起こしている時は重力によって血液が下肢の方に溜まります。
その血液を上に押し上げるのが静脈血管壁の筋収縮です。

横になることで血液を上に持ち上げる必要がなくなるため、数日で血管収縮を調節する能力が低下してきます。

また、横になると利尿が促進されるため、体内の水分量が減り、血管内を流れる血液量が減少(脱水)します。

すると血液による圧力がかからなくなる、つまり血圧が低下します。

横になっている人は飲水量も減ることが多いのでさらに脱水となる場合もあります。

脱水の基準は色々ありますが、私は簡便なのでBUN/クレアチニン比を用いることが多いです。
BUNをクレアチニンで割って20を超えてくる場合で、血圧が低下してきている時はディコンディショニングなどによる脱水も疑いましょう。

C: 心臓

はじめの血圧の式を思い出して下さい。
血圧に関わる3つの因子のうち、心臓の因子2つの掛け算が心拍出量(SV×HR)でした。

心拍出量は心臓のポンプ機能を表しますので、血圧が低い時には心臓が血液を送る能力の低下を疑う必要があります。

血圧が出せない心臓の第1候補は左室収縮能が著しく弱った心臓です。

心筋梗塞の既往(OMI)があるか長期にわたる冠動脈の虚血があるような虚血性心筋症(ICM)や、心筋が薄く伸びて大きくなる拡張型心筋症(DCM)があるような患者さんで、EFが40%を切ってくる場合は、一回拍出量が血圧低下に関与する可能性が高くなります。

第2候補は重度な弁膜症がある場合です。

心臓の弁膜には大動脈に近い方から順に大動脈弁(A弁)、僧帽弁(M弁)、肺動脈弁(P弁)、三尖弁(T弁)があります。

また弁膜症には閉鎖不全症(R)と狭窄症(S)があります。

この組み合わせでAS(大動脈弁狭窄症)、MR(僧帽弁閉鎖不全症)などと略されます。

そのいずれでも重度な場合(心エコーでsevere)は、弁から先に血液がしっかりと送り出せず血圧を低下させる可能性があります。

特に重度大動脈弁狭窄症(severe AS)は心臓の出口である大動脈弁から先に血液がほとんど出て行かなくなる非常に危険な弁膜症です。

severe ASがあって収縮期血圧が90-100mmHgを下回る血圧低下を伴う場合は、血圧低下への一回拍出量低下の影響は絶対に否定できません。

第3候補は閉塞性肥大型心筋症(HOCM)です。

こちらもsevere ASと同様、大動脈弁付近の左室流出路が肥大した心筋でほとんどふさがった状態になり、心臓から血液がほとんど出て行かなくなる病態です。

HOCMがある場合は血圧低下についてsevere ASとほぼ同様に考えて下さい。

ちなみにsevere ASとHOCMは運動療法やCPXの絶対禁忌とされています。(最近は運動時の血行動態を把握するために敢えてCPXを行うケースもあります。)

第4候補は非常に左室拡張能が低下したケースです。

基本的にはE/e'が著明な上昇を認める場合と、左室肥大に伴う内腔の狭小化に強い一回拍出量低下を伴う場合(EFは70%を超えてくるかもしれません)あたりかと個人的には考えています。

これはエビデンスのない私見に基づく数値ですが、E/e'なら20-30を超えてくる場合、また心エコーのドプラで立体的に計測されたSVが30mlあたりを下回ってくる場合が該当してくるのではないでしょうか。
(SVの基準値は概ね60-80mlとして半分以下の数字で考えています。)

EFが良くてもE/e'やSVが非常に悪いということは、EFなどに現れない何らかの心機能低下を示します。
ここに収縮期血圧が90-100mmHgを切る所見が見られた場合は、やはり心臓のポンプ機能が低下している可能性を頭に入れておいて損はないはずです。

第5候補は徐脈または頻脈です。
徐脈の場合、基本的には1分間あたりの拍出回数が減ることで心拍出量が減ります。
心拍数が40回/分台になったら注意が必要です。

また頻脈の場合は心臓に血液が充満する前に次の心拍が起きるため空打ちが増えます。
心拍数が120回/分を超えて、心電図の心拍数に比べ上腕または手首などで取る脈拍数が明らかに少ない場合は有効な心拍が減っています。

上記の1〜5はいくつかが併存するケースもあります。併存する場合はさらにリスクが高くなりますので、1つだけの場合よりもさらに心臓の影響を疑いましょう。

M: 薬剤

最後は薬剤です。

β遮断薬α遮断薬は血圧をかなり下げます(β遮断薬は心拍数も下げる)ので、注意が必要な薬剤です。

またディコンディショニングの項で脱水の話をしましたが、心不全の治療で用いられる利尿薬は特に脱水を助長しやすいです。
利尿薬が使用されていて、尿量に対してあまりにも飲水量が少ない時に並行して血圧低下傾向が始まった場合は利尿薬の関与した脱水による血圧低下を疑いましょう。

点滴による利尿作用を期待するラシックスハンプに加え、近年用いられるようになったサムスカ(トルバプタン)には強力な利尿作用があります。
なんかおかしいなと思った場合は水分のin-outのバランスを確認して下さい。

その他血圧低下に関わる薬にはACE阻害薬ARBカルシウム拮抗薬などがあります。

上記のような薬剤が複数投与されている場合も血圧低下を引き起こす場合があります。
薬剤による血圧低下が疑われる時は医師もしくは薬剤師に相談して下さい。

労作や運動に伴う末梢血管拡張

最後は末梢血管の拡張に伴う血圧低下についてです。

末梢血管には、運動により数分間血流が流れることで血管拡張する機能が備わっています。

運動すると血圧が上がると考えている人は多いですが、嫌気性代謝閾値(AT)を超えるような過度な負荷でなければ、3-5分も運動や活動を続けると末梢血管が拡張してむしろ血圧は下がる場合もあります。
(人によってはほとんど末梢血管拡張が起こらない人もいます。神経体液性因子の亢進や動脈硬化、血管内皮機能障害などの影響と思われます。)

この末梢血管拡張が起こると身体は基本的には心拍出量を増やして血圧を維持しようとしますが、心機能低下や循環器系の廃用、脱水などがあると心拍出量が増やせずに血圧が20mmHg以上低下し、収縮期血圧が90mmHgを下回る場合もあります。

また長期臥床によるディコンディショニングや糖尿病、パーキンソン病などによる自律神経障害があると末梢血管を適切にコントロールできず、もの凄く血圧が下がる時もあります。

活動時の末梢血管拡張自体は正常な血管の反応ですが、血圧があまりにも下がる場合は、上にあげたような原因が何か存在しないかを考えてみて下さい。

この記事で患者さんの血圧低下時により深く考察していただけるようになると幸いです。

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