前回のお話は、
患者さんにとって心臓病の発症とはかなり大きなライフイベントであること、
そのため患者さんの視点からも医療者の視点からも心臓病になったことを軽視すべきではないこと、
しかし患者さんは心臓病になった事実を入院中にしっかりと受容することも難しいのだ
という内容でした。
医療者は、患者さんの人生の一大事に立ち会っているのだということを忘れず関わることが大事です。
その関わりをより有効なものにするために、今回は「コンコーダンス」という概念を心臓リハビリテーションに取り入れましょうという考え方について、お話ししたいと思います。
入院短縮化の弊害
最近の入院短期化傾向で、医療者は以前ほど患者さんとのコミュニケーションにしっかりと時間を使えないことが増えてきました。
患者さんにとっては入院中に病気を受容するための時間的余裕がなくなっているのではないかと思います。
このように医療者、患者さんの双方に精神的・時間的余裕のない状況下では、ついつい詰め込み型の説明や教育がされてしまうものです。患者さんが理解していようがしていまいがお構いなく情報だけ伝えておしまい、というやつです。
コンコーダンスとは
しかし、前回お話したように、患者さんが病気になったことを受け入れているかどうかは、その後の治療を左右する重要なカギになります。
つまり、急性期入院中に医療者が目指すべきは患者さんが病気を受容してこれからの治療に前向きになれるような手助けや情報提供をしていくことであり、それにより患者さんが積極的に治療に関わっていく気持ちができるのです。
この考え方を一言で言い表す言葉が「コンコーダンス」です。
コンコーダンスについての説明はこちらから引用させていただきました。(太字は当方で変更)
コンコーダンス【いまさら聞けない看護用語・略語】 | ナースハッピーライフ
コンコーダンスとは、「患者を尊重し、医師と患者が一緒になって治療方針の合意に至るプロセス」という薬物治療の考え方です。病気について十分な知識を持った患者が疾病管理にパートナーとして参加し、医師と患者が治療を共同作業として行なう過程を意味します。
…
コンコーダンス医療では、医療者は患者を指導するだけでなく、パートナーとなり、共に病気に立ち向かっていくことが重要です。そのため、医師や薬剤師にはコミュニケーションスキルの向上も求められるでしょう。
ナースハッピーライフ より引用
患者さんに権利と責任を委譲する
これまでの医療で使われていたコンプライアンスとかアドヒアランスなどの言葉からわかるように、
患者さんは言われた治療に協力的なのが当たり前、
言うことを聞いて当たり前、
という傲慢な考え方が主流でした。
口では患者さんが中心と言いながら、患者さん当人は治療の意思決定をするチームの一員とは考えられていなかった訳です。
ですので患者さんもどこか自分の治療なのだという思いが薄く、適切な行動をとれなくなることが多かったのではないでしょうか。
一方、コンコーダンスとは、患者さんがチームの一員として専門家のアドバイスを聞きながら自分で選択できる権利を得るとともに自分の治療に対する責任を持つことを指します。
コンコーダンスとは自分の人生を自分で選ぶという基本的人権に根ざした言葉なのです。
このコンコーダンスという概念が医療者に、そして患者さんに広まれば、まさしくそれが広い意味での心臓リハビリテーションと言えるのではないかと思います。
薬物治療分野のみでなく、医療界全体に広がってほしい考え方です。
まとめ
この項の最後に急性期における心臓リハビリテーションの目的をまとめます。
- まずは患者さんの命を救い、またできる限り軽症かつ日常生活に支障がないような状態に留める(身体面)
- 患者さんが病気を受容し、これからの治療に前向きになれるような手助けをする(精神面)
- できる限りもとの生活へ復帰してもらう(社会面)
- 以上の3点を行う上で、患者さんが意思決定をする権利をできる限り尊重するように考え、また働きかける(コンコーダンス)
ここではリハビリ職種だけでなく、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、ソーシャルワーカーなど多様な職種が自らの職務を全うしつつ、相互協力することが重要です。
できることなら患者さん本人も治療の主体として各職種と協力して自らの治療を行なっていけることが理想となります。
※言わずもがなですが、これは私個人の考え方であり、必ずしもこれが正しいというものではありません。