心臓リハビリテーションのまにまに

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VE vs VCO2 slopeのわかりやすい(かもしれない)解説 前編


こんにちは、心リハ太郎です。

心肺運動負荷試験(CPX)の指標の一つに換気亢進の度合いを表わすVE vs VCO2 slope(VE/VCO2 slope)があります。

VE vs VO2 slopeを心不全の指標として用いる方が結構多いんですが、間違いではないけれど100%正解というわけでもありません。

今回はVE vs VCO2 slopeとは何を表わすのか、また何が関与するのかについて考えてみましょう。

まずは基本用語から

いつものようにこれだけは覚えておいてほしいという言葉を紹介します。
あとで解説するので、今は「へーそんなのがあるんだなー」程度に目に入れておきましょう。

  • VE(ぶいいー)
  • VCO2(ぶいしーおーつー)
  • VE vs VCO2 slope(ぶいいーばーさすぶいしーおーつーすろーぷ)
  • 死腔(しくう)

とりあえずこれだけです。そのまんまですけどね。

換気の指標 VE

VEとは分時換気量(expiratory minute volume)の略語です。

1分間あたりに体の中の空気を何リットル入れ替えたか、を表す指標です。

分時換気量を増やすには

  • 一回あたりの換気量を増やす(深い呼吸をする)
  • 呼吸数を増やす(早く呼吸をする)

しかありません。

分時換気量を表す式は

VE = TV × RR
TV: 一回換気量 Tidal Volume
RR: 呼吸数 Respiratory Rate

です。

ここで注意したいのは2点です。

  1. 肺の大きさは決まっているので一回換気量(TV)を増やすことで増える換気量はそれほど大きくない
  2. 換気量を増やすために呼吸数を増やしすぎると一回の呼吸に使える時間が短くなり、口から肺の間の気道を往復するだけの無意味な換気(死腔)が増える

換気量が一定以上に増えると、必然的に呼吸数が増え、有効な換気量が減る方向に働きます。
ここは後々に重要になってくるポイントなのでぜひ覚えておいて下さい。

死腔というのは、酸素や二酸化炭素などのガス交換に関与しない部分のことです。

口腔、気道、気管支などはガス交換を行う肺胞がないため解剖学的死腔と言われます。

肺の中でも、十分な空気が入ってこない部分や、ガス交換をするための血液が十分に流れてこない部分は死腔となります。

二酸化炭素排出量 VCO2

VCO2は二酸化炭素排出量(volume CO2)のことで、1分間あたりに排出した二酸化炭素の値です。

人間の身体を維持し、動かすためにはエネルギーが必要です。
そのため人間の身体では常に酸素と基質(エネルギーを作るもとになる物質で大体の場合は糖類)を使い、エネルギーを産生しています。

エネルギーを作ると必ず酸(H+)が発生します。
発生した酸を放っておくと、細胞や身体がアシドーシスになり死んでしまうため、水と二酸化炭素に形に変え、肺を通して体外に二酸化炭素を放出しています。
(尿からも酸を排出しています。)



Wikipediaより転載 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/呼吸

基本的にはブドウ糖1つに対し、6つの酸素を使いエネルギーを作ると6つの二酸化炭素が出てきます。

C6H12O6 + 6 O2 → 6 CO2 + 6 H2O

つまり吐き出す二酸化炭素量が多いということは、それだけたくさんのエネルギーを作り出したということです。

CPXの負荷が増えるほど、筋肉などがたくさんのエネルギーを消費するため、VCO2も増えていきます。

つまり普段の活動や運動でも負荷が強くなるほどVCO2は増えるわけですね。

二酸化炭素も酸の一種なので外に吐き出さないといけません。
二酸化炭素が増えるような強い負荷のかかる活動や運動では、負荷に応じて分時換気量を増やす必要があります。

VEの調節は主に二酸化炭素で決まる

人間の身体は、体内の酸の濃度を感知し、それに応じて換気量を調節する仕組みになっています。
このセンサーは中枢(延髄)と末梢にあります。
このセンサーを化学受容体といい、酸に対する反応をケモリフレックス(化学受容体反射)といいます(ケモは化学の意味です)。

体内の酸を呼吸によって体外に排出するために二酸化炭素が利用されます。
二酸化炭素は非常に水に溶けやすく、肺うっ血が起こっても体外に排出されやすいという性質もあり、二酸化炭素の形にすることで肺から外に酸を出しやすいというメリットが得られます。

したがって体内で産生される酸や二酸化炭素の量に比例してケモリフレックスが起こり、換気調節されるというのが、換気量を決める最も重要な仕組みなのです。

換気調節に働くもう一つの仕組み

また、二酸化炭素が増えるような物理的刺激を感知した時、例えば筋肉が伸び縮みした時などにも換気量が増える仕組みにもなっています。

このセンサーは骨格筋にあります。
このセンサーを器械受容体といい、物理的刺激に対する反応をエルゴリフレックス(器械受容体反射)といいます(エルゴは運動器の意味です)。

なぜ換気調節にエルゴリフレックスの経路があるのでしょうか?

もちろんどこかがダメになった時のバックアップの意味もありますが、エネルギー消費によって増えた酸の濃度を検知してから呼吸調整をしているとタイムラグが生じてしまうためです。

すると二酸化炭素が体内にたまり、息が上がってしまいます。

筋肉の伸び縮みのような物理的刺激があるということは身体を動かしはじめたわけですから必ず二酸化炭素の排出量も増えるはずです。

それに先回りして換気を上げておくために、酸の濃度以外の経路での換気をあらかじめ調節しておく仕組みが用意されているのです。

このケモリフレックスとエルゴリフレックスは後で大事になりますので、言葉だけでも覚えておいてください。

呼吸は酸素を吸うために行なっているのではない

呼吸とは、酸素を吸うために行なっていると考えていた人が多いのではないかと思います。

そういう人は、「あれ?呼吸は酸素を吸うためじゃなくて二酸化炭素を出すためにしてるの?」と驚いたかもしれません。

もちろん極端な酸素不足、例えばSpO2が90%を切るくらい血中酸素濃度が低下したら、酸素不足の改善のために換気量が増えます。

しかし酸素化不良はかなり重度なガス交換障害の原因がない限り生じません

そのため換気量は基本的には二酸化炭素を吐くために調節されていると考えてよいでしょう。

息切れ(換気亢進)とは酸素が足りないからではなく、二酸化炭素を吐きたいがために起こる症状だということです。

患者さんの息が切れているときにサチュレーション(SpO2)を測っても、大抵の場合はSpO2が下がっておらず、首を傾げることがありませんか?

上で説明したことが理解できれば、息切れ(換気亢進)には酸素化低下が関係しないことが分かりますので、SpO2を測って「息は切れてるけどSpO2は下がっていないから大丈夫」などというトンチンカンなアセスメントをすることはなくなります。

ちなみに慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは肺胞から気体が出て行かず、その結果息が吐けずにCO2が貯留して換気が亢進するのですが、息を吸おうにも肺にはすでに空気が一杯であるため、肺まで酸素の含まれた新鮮な空気が到達せず、酸素化が低下するという病気です。

ここでもはじめは二酸化炭素の貯留が換気亢進のエンジンをかけています。

ですので、息すぼめ呼吸を行なって二酸化炭素を吐き出してあげることで換気亢進が抑制され、また次の吸気を有効に行うことができるんですね。

VE vs VCO2 slope 運動時換気応答

CPXなどの漸増負荷運動(徐々に負荷が強くなる運動)では、運動強度の増加(ペダルの重さや歩行速度などの増加)に応じて二酸化炭素排出量が増え、その二酸化炭素排出量に応じて換気量が増えることを先ほど説明しました。

基本的にはVCO2の増加に対してVEも一定割合で増加します。

CPXのような漸増負荷試験中に、この二酸化炭素排出量に対する換気量の増加割合を示すのがVE vs VCO2 slopeです。
二酸化炭素1に対して大体24〜34の範囲が正常値です。

VE vs VCO2 slopeはVCO2に対する換気効率と言えます。
低いければ効率のよい換気、高ければ効率の悪い換気ということです。

VE vs VCO2 slopeが高いということは本来なら不必要なはずの換気が行われているわけです。

心不全では肺うっ血や循環血液量の低下などにより換気血流不均衡が生じると言われています。

換気血流不均衡とは、肺の新鮮な空気が入ってくる部分に血流があまり来ず、十分なガス交換ができない状態のことです。

心不全では、肺うっ血や胸水によりガス交換に関与できない死腔が増加して有効な一回換気量が減ったため、呼吸数を増やして換気量を増やし、なんとかガス交換をしよう、という身体の反応が起こるのです。

これが心不全におけるVE vs VCO2 slopeの上昇の一因としてよく使われる説明です。

VE vs VCO2 slopeが40を超えると、心不全では予後が悪くなることが知られています。
これは、VE vs VCO2 slopeが高くなるにつれ心不全がより重症化していることを反映するということでもあります。

また心不全の肺うっ血や胸水による死腔増加以外にも換気亢進(VE vs VCO2 slopeの上昇)に関わるいくつかの因子があります。

このような因子は、それ自体が単体で予後を不良にする因子です。

思いのほか、文章量が多くなってしまったため前中後編にわけて、次回、これ以外のVE vs VCO2 slopeに関わる因子についてお話ししようと思います。


ではでは。