心臓リハビリテーションのまにまに

心臓リハビリテーションを10年以上している心リハ太郎が日々考えたり思ったりしているエビデンスのあることないことをつらつらと書いています。

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心不全における皮膚の乾燥は予後を悪化させるかもしれない

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心リハ太郎です。

近年皮膚のバリア機能が注目されています。

特に、皮膚のバリア機能の維持には乾燥の予防と炎症の予防が重要であることが皮膚科領域では常識になりつつあります。

 

さて、心不全患者さんにおいて、皮膚の乾燥は非常によく見られる臨床所見です。

この皮膚乾燥の要因として、心機能低下による末梢循環不全、交感神経緊張や強心薬による末梢血管収縮、そしてうっ血コントロールを目的とした利尿薬と水分摂取制限による脱水が考えられます。

心不全の治療は利尿と水分制限により体内の水分量を減らすことでうっ血の増悪を防いでいるわけですが、心機能低下により元々の末梢への血流が少ない上に、血管も収縮して皮膚の表面近くまで血流が十分に届かず、その影響で皮膚の乾燥が生じるものと思われます。

患者さんによっては、皮膚が荒れて掻きむしったりして傷が出来ているケースにもよく遭遇します。

 

さて、この乾燥とそれに伴う皮膚の炎症状態、場合によっては傷が感染していることで何が生じるのでしょうか。

 

 

例えば蜂窩織炎です。

蜂窩織炎は皮膚のバリア機能低下で傷口などから黄色ブドウ球菌などが入り、皮膚の深い部位に感染し、炎症・発熱などを引き起こします。

このような炎症や発熱は心拍数の増加や代謝亢進を引き起こし、心不全の増悪に繋がるかもしれません。

また異化亢進に伴う低アルブミン血症などもうっ血の改善を困難にする可能性があります。

 

また皮膚から血管内へと細菌が進入する危険性も考えられます。

歯科領域では、歯槽膿漏などを通じて血管内に細菌が入り込むことが、動脈硬化リスクを高めることも報告されていますので、バリア機能を失った皮膚で同様のことが起こらないとは言い切れません。

 

また皮膚の痛みや痒みで睡眠障害などが起これば、身体的・精神的ストレスによる神経体液性の亢進から心不全が増悪、あるいは難治化するかもしれません。

 

人間の身体は複雑系であり、思いもよらぬところからの影響を受ける可能性は否定できないと思いますが、皮膚科領域から心不全にアプローチした研究はあまりみつからないんですよね。

というか海外の文献も含めて軽く調べましたが全くヒットしてきません。

 

現在心不全患者さんに対する皮膚のケアについては褥瘡に関することがメインではないかと思います。

それはもちろん重要なのですが、心不全患者さんによくみられる皮膚の乾燥と炎症が引き起こしうる問題、そして皮膚の状態悪化に伴う痛みや痒みなどのQOL低下に直結する問題などを考え、心不全患者さんの皮膚のケアをもう少し考えてみても面白いのではないかと思うのは私だけでしょうか?

 

皮膚のバリア機能を維持するための最良の方策は保湿です。

患者さんからは皮膚がシワシワのボロボロになって情けないという言葉もしばしば聞きますので、その心理的効果も考えると決して無駄ではないと思うのですがどうでしょうか。

願わくば心不全患者さんの皮膚を保湿することで、予後を改善するかどうかを調べる研究が出てきてくれないかなあなどと日々妄想しています。

 

スキンケアの理論についてはこちらが詳しいです。

皮膚とは一体どういうものであるのかということが分かる一冊となっています。

具体的なスキンケアの方法というよりは、理論を理解することで応用が利くという書籍ですね。皮膚に興味のある方は是非ご一読ください。

 

ではでは。