FIMやBIでは見えない活動制限と、ICFの視点

ICF(国際生活機能分類)

◆ 導入:「満点のはずなのに、つらそうな患者さん」
FIMやバーサルインデックス(BI)が満点なのに、
「坂道を歩くと途中で休みたくなる」「階段はできれば使いたくない」「病院内の移動も何度か腰かけながらじゃないと無理」
そんな訴えを耳にしたことはないでしょうか。
私たちはこのような“できるけれど、しんどい”という状態に日々出会います。
これは、心疾患など内部障害に特有の活動制限の表れであり、
「ADLの評価では問題なし」とされながらも、実際の生活では苦しさを抱えている患者像のひとつです。
◆ ゴールデンスタンダードはCPX
“しんどさ”の正体を探るとき、最も構造的な評価ができるのが、CPX(心肺運動負荷試験)です。
CPXは、心疾患に伴う活動制限の背景にある内部要因(心肺機能)と末梢要因(筋力や代謝)を切り分けてくれます。
特に、
- AT(嫌気性代謝閾値)が11ml/kg/minを下回る
- VE/VCO₂スロープが34を超える
といった数値は、日常的な易疲労性や呼吸の効率性の低下を示す指標となりえます。
FIMが満点でも、「坂道がきつい」という訴えに、数値で裏づけを与えてくれるのがCPXなのです。
◆ すべての現場でCPXができるわけではない
とはいえ、CPXは設備・時間・体調の制約もあり、すべての現場で常に使えるわけではありません。
だからこそ、もっと身近で簡便な評価の引き出しが求められます。
◆ 簡便な評価方法で“しんどさ”を構造的に見る
以下のような視点から、心疾患患者のしんどさを読み解く手がかりを得ることができます。
【1】心身機能
- 握力や膝伸展筋力
- 呼吸数や脈拍の亢進、呼吸補助筋の使用など
【2】活動
- SPPB(起立速度・歩行速度・バランス能力)
- 6分間歩行試験(6MWT):歩行持久力と歩行活動の実用性
- スペースが限定されていて6MWTが困難な場合には、
私個人はトレッドミルで時速3km × 6分間歩けるかどうかを見るという方法で代用することがあります。
【3】主観評価
- ボルグスケールや、患者の言葉にならない訴えの聞き取り
これらの情報を組み合わせて、ICFの枠組みで「どの因子が制限に関係しているのか」を読み解く視点が必要です。
◆ ICFは評価表ではない
ICF(国際生活機能分類)は、点数をつける評価指標ではなく、
心身機能、活動、参加、環境因子、個人因子の相互関係を構造的に捉える“地図”のようなものです。
だからこそ私たちは、しんどさの原因がどこにあるのか、どの因子が影響しているのかを、評価結果をICFモデル上にマッピングしながら読み解いていく必要があります。
◆ パフォーマンスは多因子的な現象である
「歩行距離が短い」という現象ひとつを取っても、
筋力の低下、呼吸苦、脈拍の乱れ、心理的な回避、環境の不安…
さまざまな因子が重なり合って影響していることがほとんどです。
ICFでは、これらの因子が相互に作用し合うことを前提としています。
だからこそ私たちセラピストは、“現象”に飛びつかず、“構造”を読む力を育てていく必要があります。
◆ できていることの再構成もICFの役割です
ICFは「何ができないか」だけを明らかにするツールではありません。
「何ができているか」「何が支えになっているか」を可視化するレンズでもあります。
たとえば——
「私はもう外に出られない」と話していた患者さんが、最近になって近所のスーパーまで歩いて行けるようになった。
そうした変化を、活動の改善や参加の回復として捉えられるのも、ICFの強みです。
評価とは、「ないものを探す」だけでなく、
「あるものを再構成する」ことでもあると私は考えています。
◆ まとめ|ICFは“再構成のレンズ”である
私たちは日々、単なる機能低下ではなく、「その人の生活」と向き合っています。
ICFは、点ではなく線で、
断片ではなく構造で、
「しんどさ」を読み解くための再構成のレンズです。
評価とは、指標を並べることではなく、
“その人がどんな一日を過ごしているか”を支えるために、何が見えているかを問い直すことでもあります。
執筆者プロフィール
心リハ太郎(理学療法士/心臓リハビリ専門)
20年近くの臨床経験をもとに、心臓リハと生活支援のあいだを考える情報発信を行っています。