こんにちは、心リハ太郎です。
心負荷の高い活動がどんな活動かということを今まで考えたことはありますか?
山登りや階段、重いものを運ぶなどいかにもキツそうな活動でしょうか?
あるいはこのようなMETs表を見ながら高いMETsに該当するかどうかを確認しますか?
http://www.nibiohn.go.jp/files/2011mets.pdf (国立健康・栄養研究所 改訂版『身体活動のMETs表』)
確かにそれも間違いではないのですが、このような教科書的な知識だけでは患者さんの活動が本当に過活動になっていないかを把握できない場合も多いです。
実際に心不全入院してくる患者さんには身体がしんどいにも関わらず家事や畑仕事などをしすぎて心不全を増悪させてくる方も一定数おり、そういう場合は細かな内容やどう動いているのかなども聞き取る必要があります。
このようなときは、METs表に記載されているような代表的な活動だけでなく、それ以外の日常生活活動が心臓に負担をかけているのかを患者さんの生活に即して考えなくてはいけない場合があります。
代表的な身体活動を覚えるだけでなく、考え方のポイントを掴めば応用的に考えられるようになり、臨床で広く活用することができるようになります。
今回はそのポイントを説明します。
心負荷=心仕事量の理論式
心負荷とは心筋の仕事量(心仕事量)のことです。心仕事量は簡単な式であらわされます。
心仕事量 = 収縮期血圧 × 心拍数
この心仕事量のことをダブルプロダクト(double product: 二重積)とも言います。
心臓にとっては、血圧が高いほど抵抗が高くなるため、それに負けないように心臓の筋肉(心筋)がより強く収縮しなければいけません。また心拍数が高いほど筋肉を収縮・弛緩する回数が増えますので、心筋にかかる負担が大きくなります。
これは、道を歩く時の坂の勾配が収縮期血圧、歩行速度が心拍数と考えると分かりやすいでしょう。坂道がきついほど、また歩行速度が速いほど歩くのがきつくなりますよね。
急勾配の坂を、早いペースで上り続けると足は疲れ、息も上がってきますが、それと同様に、心臓にとっては血圧が高く、心拍数が高いほどきつい負荷になるということです。
元気な心臓であれば、このような負荷にも耐えることができますが、心筋梗塞後や心不全などのように、心臓の能力が低下している場合は負荷に耐えきれず、心臓の機能が破たんしてしまうことがあります。
このような心臓にとっての負荷の高さを判断する基準が、上で説明した二重積(ダブルプロダクト)になるわけです。
二重積の重要性を理解いただけたと思いますので、ここからは、収縮期血圧と心拍数のそれぞれに影響を与えやすい活動について考えていきましょう。
血圧が上がりやすい活動
血圧が上がりやすいのは、筋肉に動きはないけど力が入り続ける活動です。
このような筋肉の使い方を等尺性収縮といいます。
例えば
- 腕で重い荷物をもつ(腕の筋肉に力が入り続ける)
- しゃがんだ状態や中腰の姿勢を維持する(足や身体の筋肉に力が入り続ける)
などの活動では等尺性収縮が起こりやすく、血圧が上昇しやすいといわれています。
この時に息を止めるとさらに血圧が上がりやすくなることが知られていますね。
これをバルサルバ負荷といいます。
ですので、血圧が上がりやすい患者さんには、重い物を持ったりするときに息を止めないようにすることを説明したほうがよいでしょう。
また、トイレなどでいきむときにも息を止めると、腹筋を収縮させながらバルサルバ負荷を行うことになり、血圧が上がるとされています。
心拍数が上がりやすい活動
心拍数が上がりやすい活動は、歩く、腕を動かし続けるなど、しばらく続けていると息がハアハアとしてくるようなリズミカルな活動で、いわゆる有酸素運動といわれる活動です。
窓拭き、床の雑巾がけ、モップがけなどの腕を使った家事活動もここに含まれます。
このようなリズミカルな運動では基本的にものすごく負荷が高くなることは少ないです。
しかし有酸素運動の強度を超えて無酸素運動になると心臓に対する負荷が急激に上がります(分かりやすくするためにあえて無酸素運動という表現にしていますが実際はもう少し複雑です)。
この有酸素運動と無酸素運動の境目を嫌気性代謝閾値(AT)と言います。ATを超えると心拍数が上がりやすくなり、同時に血圧も上がりやすくなることが知られています。
歩いたり、掃除をしたりしているときに、息がハアハアとしてしまう場合は、ATを超えている可能性が高いため、もう少しゆっくりと動作を行う必要があります。
また、それほど強くない運動や活動であっても、著しく筋力が低下している場合や心臓の機能が極端に悪い場合は、ただゆっくりと歩くだけ簡単にATを超えてしまう場合があるため、このような患者さんでは注意が必要です。
特に心負荷がかかる活動
心負荷がかかりやすい活動、すなわち収縮期血圧と心拍数が同時に上がりダブルプロダクトが高くなる活動とは、静的な筋収縮と動的な動きが同時に行われる活動です。
よく言われるのは
- 重いものを持ちながら歩く
- しゃがんで床を拭く
などですが、コツをつかめばどれだけでも応用が効きます。
要するに腕に力が入り続けつつ足を動かすパターンと足に力が入り続けつつ腕を動かすパターンを考えれば良いのです。
こんな風に考えると
- しゃがんでする草むしり
- 中腰やしゃがんだ姿勢でする風呂の床掃除
- 中腰の姿勢での掃除
- 高いところの電球を替えたり、庭木の剪定をする
- スキー
- 戸棚の下の方の片付け
- 腰を落としての正拳突き
など色々と応用が利きます。
他にも身体に力を入れながら手を動かす動作などが挙げられます。不安定な姿勢を維持するために腹筋や背筋に力が入り続ける場合がここに当てはまります。
例えば
- 無理な体勢で手を伸ばして押入れの中のものを探す
- 田植えをする
- 鮎釣りなど川に入って流されないようにしながら腕や足を動かす
など、こちらも色々なパターンが考えられます。
心不全患者さんの場合、家事や生活動作であっても、心負荷が高まりやすい方法で活動を長時間行うとそれだけで心不全が増悪することがあります。
そういう方の過活動のチェックは、はじめに書いたように、単に嫌気性代謝閾値(AT)を超えていないかをMETs表で確認するだけでなく、上に書いたような考え方を元に、心負荷の上がりやすいパターンで日常生活動作や仕事などを行なっていないかを聞き取るとよいでしょう。
心負荷を減らすポイント
実際に心負荷を下げるための工夫の仕方についてですが、心拍数が上がるのを避けるか、血圧が上がるのを避けるかのどちらかで心負荷は減らせます。
例えば草むしりを膝をついて行うなど体勢を変えて動作を行うよう指導したり、柄のついたブラシなどの道具を使ってしゃがんだり中腰になることを避けるよう工夫してもらうなど、色々な方法で負荷量を落とすことができます。
実際にリハビリ室で家と同じ動作をしてもらって心拍数と血圧を測ってみるのも一手です。
このときはモニター心電図で活動中の心拍数を測ることを忘れずに。
活動後に血圧計で脈拍を測っても、その時には既に心拍数が元に戻ってしまっていることが多いです。
またモニター心電図の心拍数を見ながら、動作中の心拍数を減らすような動き方を患者さんと一緒に工夫してみるとより実用的かもしれません。
この辺りの工夫については理学療法士や作業療法士(特に作業療法士)などセラピストの得意とするところですから、看護師さんなどであればどういう工夫の仕方があるかセラピストに相談して一緒に考えてもらうとよいでしょう。
また不安定な姿勢で何かを行うことは、想像以上に心負荷がかかる可能性がありますので、体勢を安定させるように指導するのもよいかもしれませんね。
ではでは。