心臓リハビリテーションのまにまに

心臓リハビリテーションを10年以上している心リハ太郎が日々考えたり思ったりしているエビデンスのあることないことをつらつらと書いています。

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足がむくんでいるときに足を上げて寝るのはよいことなのか

こんにちは、心リハ太郎です。

足がむくんだときに、足を高くして寝るという話は患者さんからよく聞きます。

足を高く挙げれば、水が低い方に流れ、朝にはむくみがとれていることが多いという理由です。

しかし、足がむくんでいるときに、足を高くすべきではない病気があることを知っておかなければなりません。

足のむくみには要注意

循環器ではない病棟で、輸液を入れた患者さんの足がむくんでいたので看護師が足を高く上げて寝させたら心不全がひどくなった、という話を聞いたことがあります。

普通は輸液をいれただけで足がむくむことはありません。

足のむくみが出た時点で、心不全を疑う必要があったのですが、循環器の病気で入院していたわけではなかったため、それに気づかず間違った対応をしてしまったわけです。

足がむくむのは循環器系の問題が多い

水分過多のときに足がむくむ病気には、心不全や腎不全があります。

心不全は心臓が悪い病気、腎不全は腎臓が悪い病気です。

体の水分が増えたときには、普通は余分な水分をおしっこで外に出してしまいます。

おしっこを出すための臓器が腎臓です。
腎臓は血液をろ過して、老廃物と余分な水分を出す働きをしています。

腎臓に血液(水分)を送るのが心臓です。

心不全の場合は、心臓が血液を送る能力が低下しているため、腎臓への血液が減り、おしっこを出せなくなります。

腎不全の場合は、血液をろ過する部分(糸球体といいます)が目詰まりして、水や老廃物をおしっことして排泄できなくなります。


いずれにしても、おしっことして余分な水分を出せなくなるため、体がむくんでくることになります。
(本当はもう少し複雑ですが、わかりやすくしています。)

特にむくみがでるのは心不全です。

心不全の場合、スネの骨の上を10秒間親指で押し込むと、指の跡が残ります(痕跡浮腫:こんせきふしゅ)。

こういう場合はまず医師の診断を仰ぐのが重要でしょう。

起座呼吸を理解しよう

重症の心不全の人が、夜に横になると息苦しくなったり、咳がとまらなかったりして眠れなくなることがあります。

北海道心臓協会より

体を起こすと息が少し楽になり、少し眠れますが、また横になると苦しくて眠れなくなります。

これを起座呼吸(きざこきゅう)といいます。


起きている間は重力で足に溜まっている血液が、横になったとたん心臓に一気に返ってきます。

心不全では心臓が弱っているため、たくさんの血液を処理しきれません。

すると、処理しきれない水が肺の血管にたまり、そこから水がしみ出ていきます。

それがひどくなると、肺水腫という、肺が水びたしになった状況になり、陸にいながら水に溺れたような状態になります。

こうなると息が苦しくて、とても横になっていられません。

そのため、体を起こして足の方に血液を移動させると、息が楽になり、なんとか寝れるようになるのです。

弱った心臓としては、処理しきれない水を足に溜めておくことで、返ってくる水分が少しでも減る方が楽なわけです。

心不全の人が足を上げてはいけない理由

足がむくんでいるのをみると、むくみにびっくりして、むくみを良くしたくなる気持ちはよく分かります。

しかし、心不全の場合は、横になって足と心臓を同じ高さにしただけで血液を処理しきれなくなるのに、さらに高い位置に足を上げれば、より心臓に負担をかけることになります。

むくみを取るために足を上げて血液が心臓にたくさん返ってきてしまうと、それを処理しきれなくなって心臓が弱り、さらにむくみが悪化するようになる、という悪循環に陥ります。

これが、心不全の人の足を高く上げて寝させてはいけない理由です。

足がむくまなければよい、というわけではなく、心臓が弱ったことで全身に水が溜まっているのを治療しなければ、よくはなりません。

基本的には利尿薬などの心不全を治療する薬が必要になりますので、まずは医師の診断・治療を受けることが先決です。

心不全の人は日中横になることも心臓に負担をかける

心臓が悪いから、といって横になってばかりの心臓病の患者さんは多くいます。

しかし、上で説明した話が理解できると、ずっと横になって過ごすことは心臓にとって意外と過酷な状況であることがわかります。

心臓を休めるためには、椅子に座って足を下に垂らし、心臓と足に高低差をつけてあげることが重要です。

座椅子や座布団よりも椅子の方が高低差が付きますので、より効果は出やすいでしょう。

ただし、非常に心臓が弱っていて、上の血圧が90mmHgを切り、めまいや意識低下、失神などの中枢症状がでる場合は、すぐに横になってもらった方がよいでしょう。

心不全以外の足のむくみ

心不全以外にも足のむくみがでる病気があります。

たとえば
深部静脈血栓症(静脈に血栓がつまり、流れなくなってしまう)
リンパ浮腫(リンパ液の流れが悪くなっている)
静脈還流障害(静脈の逆流防止弁がうまく働かない)
肝臓疾患(アルブミンという物質が減りむくみが出る)

などです。

深部静脈血栓症など致命的な状態になるものもありますので、足のむくみがひどければ、まずは循環器や内科の医師の診察を受けましょう。

浮腫(むくみ)についてのおススメ書籍

むくみに関する書籍をいくつか紹介しておきます。

背景疾患をしっかり見抜こう あなたも名医!患者さんのむくみ、ちゃんと診ていますか?

むくみ1つでもこれだけたくさんの原因があるのか、というほどむくみの原因となる病気について解説された本です。

値段も安く、この一冊をそばに置いておけば、むくみについて、ある程度対応ができるようになると思います。

むくみの診かた―症例で読み解く浮腫診療

具体的な症例も含めて参考にしたい方はこちら。
上で紹介した書籍と同じ著者なので、ほぼ全てのむくみが網羅されていると思います。

心不全ケア教本

心不全のケアについてはこれを一冊持っておけば間違いないでしょう。
内容は多めで少し難しいですが、それだけにほぼ全てが網羅されている良書です。
看護師や理学療法士だけでなく、患者さんにもおススメしたい一冊。

明日からは、足のむくんだ心不全患者さんの足を上げるのをやめましょう。

ではでは。