心臓リハビリテーションのまにまに

心臓リハビリテーションを10年以上している心リハ太郎が日々考えたり思ったりしているエビデンスのあることないことをつらつらと書いています。

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心疾患の貧血はなぜ悪いのか

患者さんが最近元気ないなーと思ったら貧血が進んでいたってことありませんか?

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貧血はよくないとみんな思っていても、なぜ悪いのか、何にどのくらいの影響が出るのかを理解している方は意外と少ないです。

貧血は血中酸素含量に影響する

人間の身体では酸素を使って生命維持活動や身体の移動(骨格筋の活動)などに必要なエネルギー(ATP)のほとんどを作っています。

酸素を運ぶのは血液中の赤血球というトラックです。

このトラックは道路(血管)を通ってエネルギーを作る工場(細胞)に運ばれます。貧血はトラックの台数が少なくなった状態です。

ヤマト運輸のドライバーさんたちがAmazonの配送量の増加に伴い過剰労働となったように、運ぶものの量に対してトラックの台数が足りない場合、その仕組みはいつか破綻します。

もしヤマト運輸のドライバーが3分の2になったら、半分になったら、と考えると、ドライバーの過剰労働がとんでもないことになるのはわかりますよね。

運ぶ荷物が少ない時(安静時)はなんとかなるかもしれませんが、運ぶ荷物が多くなった時(活動時)にはかなりの無理をしなければ仕事をこなせません。

貧血でも体内では同じことが起こっています。

貧血が進んだ時には、同じ量の酸素を運ぶために心臓が昼夜を問わず頑張り始めます

慢性心不全のような弱った心臓では頑張りにも限界があるため、心不全が悪化したりします。

正常に近い心臓でもひどい貧血が長期間続けば心不全になることもあります。

貧血の影響がわかる式

血液中に含まれる酸素の量を推定する公式があるのをご存じでしょうか。

CaO2(動脈血酸素含量) =

1.34 × Hb × SpO2/100 + 0.003 × PaO2

Hb:ヘモグロビン(g/dl)

SpO2:経皮的酸素濃度(%)

PaO2:動脈血酸素分圧(torr)

これは100mlあたりの血液に含まれる酸素の量を計算する式です。

0.003×PaO2の部分は、血漿に溶けている酸素の量ですが、酸素は水に非常に溶けにくいのでほぼ無視していい量です。

すると、Hb(ヘモグロビン)とSpO2(経皮的酸素飽和度)が血液中の酸素量に影響する因子だとわかります。

SpO2が低いと大騒ぎするのにHbは見過ごされる

医師、看護師、理学療法士問わず、SpO2が低いと途端に大騒ぎします。

これは別に間違ったことではないのです。99%あったSpO2が90%に下がった場合、血液中の酸素含量は約9%低下している訳ですからね。

でも12g/dlあったHbが9g/dlになっていても、「ふーん貧血だね」くらいの反応しか返って来ないことがよくあるんです。

先ほどの式に当てはめれば、血液中の酸素含量は25%低下しているのにですよ。

SpO2が75%になったのと変わらない血中酸素含量である状態を見過ごすのは本当は非常にまずいんです。

心不全患者さんの貧血

細胞が欲しているのは実は血液ではなく酸素な訳ですから(酸素摂取量(VO2)を理解しよう - 心臓リハビリテーションのまにまに )貧血前は100mlの血液を送れば酸素が足りていたのが、貧血のせいで25%増の125ml送らなければいけなくなれば、弱っている心臓にムチ打たなければならなくなりますので・・・後はどうなるかわかりますよね。

心機能が悪い人が貧血になると心不全増悪しやすくなるということはこのようなことが理由です。

貧血の心疾患患者さんの対処法

心機能の悪い患者さんで貧血が強い場合、貧血自体を改善するような治療を行い、その効果を待つのがおそらく第一選択になります。しかしそれが難しい場合などは、必要な酸素量を減らすしかありません。つまり安静にするということです。

強い貧血時に行う積極的な長期間の有酸素運動は恐らく真綿で首を絞めるような行為になるでしょう。

なぜなら貧血では酸素配給不足や心拍数の増加などがあり、貧血前に行った心肺運動負荷試験(CPX)で算出された嫌気性代謝閾値(AT)やその際の目標心拍数(THR)などはあてにならないからです。

なのでATの運動だから大丈夫だろう、というのは危ないです。

もし比較的安全なことがあるとすれば、酸素を使わない解糖系でのATP産生だけで済むような数十秒程度で終わる軽めの筋トレや短時間の歩行あたりかもしれません。

他にはどういうメニューがいいのか、皆さんも知恵を絞って考えてみてください。

ではでは。