心臓リハビリテーションのまにまに

心臓リハビリテーションについて考えたり思ったりしていることをつらつらと書いています。

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心不全ってどんな病気? 心不全のリハビリテーションシリーズ その1

こんにちは、心リハ太郎です。

日本では高齢化に伴い、これから2025年にかけて心不全患者さんの数は爆発的に増えると言われています。

2018年の今でも循環器の病棟が心不全の患者さんで溢れかえっている病院も少なくないでしょう。

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心不全は心臓の働きが落ちることで起こります

逆に言えば心臓の働きが落ちる原因がなければ心不全にはなりません

心臓が悪くなる原因には様々なものがあります。
例えば、心筋梗塞、不整脈、弁膜症、などなどです。

原因によって治療方法も違うため、ただ「心不全」というだけでは、それがどういう病気なのかを理解することはなかなか難しいです。

ですから医療に関わる人間でも、

心不全とはどんな病気か?

と聞かれて、わかりやすく説明できる人は実はあまり多くないかもしれません。


また、心不全は歳をとるほど発症する人の数が増えます。

そのため、心不全患者さんの多くは高齢者、ということになります。

高齢である、ということは身体が弱った、いわゆる虚弱(フレイル)の方も多いということです。

虚弱である、ということは移動能力が低い、ということを意味しますので、買い物や通院などの外出ができなくなりますし、転倒・骨折などの危険性も高くなります

また高齢者には、当然認知症、あるいは認知機能が低下した方々が多く含まれます。

認知機能が低下すると、薬や食事などの生活管理ができなくなりますし、自動車の運転も難しくなるため、さらに移動能力が低下します。

すると、ますます通院や買い物が困難になり、生活や病気の管理が立ち行かなくなります


そして、日本では子どもが親元を離れて家を持つ、いわゆる核家族化した世帯が多いです。

そのため家に高齢者しかいない高齢者世帯、あるいは高齢者が一人暮らししている独居世帯もかなりの割合を占めることになり、子どもや家族のサポート(金銭面も含む)を受けられないケースも大変多いのです。

このように、心不全患者さんは、虚弱や認知機能の低下といった問題だけでなく、社会的な問題(独居、高齢世帯、貧困など)を抱えた方が多いため、自宅復帰や退院後の病気の管理すら危ぶまれるケースが多々あります。


しかし、はじめに申し上げたとおり、心不全は今後爆発的に増えることが予想されているため、心臓リハビリテーションや循環器疾患に関わる人にとっては避けては通れない病気です。

心不全?
わからないなー
では済まなくなる世界がすぐそこに来ているのです。

そこで心不全と、そのリハビリテーションについてシリーズで解説してみるのが今回の試みです。

心不全のリハビリテーションについて書こうと数ヶ月前に思い立ったものの、ずっと試行錯誤していたため更新がなかなかできなかったのはナイショです(笑)。

心不全シリーズの第1回目として、まず心不全とはどういう病気であるのかについて説明していこうと思います。

心不全ってどんな病気?

心不全ってどんな病気かと聞かれてあなたはどう答えますか?

心不全というと、心臓が悪くて・・・えっと・・・あとは手足がむくんだり・・・あ、息が苦しくなったりする・・・とか?

これらは全て正解ではあるのですが、こういう説明では心不全という病気の定義を理解しているとはいえません。

心不全の定義

心不全とは、「心臓に器質的な障害が起こり、心臓の能力が落ちて十分な血液を出せなくなることで、心臓以外の臓器や身体のシステム全体に影響を及ぼし、心臓と全身の能力低下が進行していく」病気です。

上の説明だとまだ難しいので、順番に説明します。

心臓の器質的な障害が心不全の引き金になる

器質とは形(器)や機能(質)のことです。

器(うつわ)の形や機能が変われば、果たす役割も変わります。

バケツに少しサビがでた場合、見た目は悪いですが、水を入れておくことができます。

液体を溜めたり運んだりできることがバケツに最低限求められる役割です。

しかし、サビがひどくなって穴があき、水が漏れてくるようになると、バケツは水を入れるという本来の役割を果たせなくなります

つまり物の形や材質が変化すると機能が低下したり、場合によっては全く機能を果たさなくなるということです。

心臓に器質的な障害が起こる、というのは心臓の中のどこかの形や材質が変わり、その結果、機能が落ちるということです。

心臓の一番大事な役割は血液を循環させるポンプの機能です。

心臓の前から血液を吸い上げ、心臓の後ろに血液を勢いよく送り出すことでポンプの役割を果たしています。

心臓に器質的な障害が起きると、心臓のポンプ能力が落ち、送れる血液の量が減ります。

例えば、ポンプ能力が落ちる心臓の器質的な変化として

  • 心筋梗塞で心臓の筋肉(心筋)が壊死して心筋の収縮力が落ちる
  • 弁膜症で弁がしっかりと塞がらず血液の逆流が起こるようになる
  • 左室肥大で心筋が分厚くなって硬くなり、柔軟に血液を溜められなくなる
  • 心房が拡大して心房細動が起こり、心室に血液を送る量が減る

などがあります。


心臓のポンプの働き(一回拍出量)に関わるのは大きく分けて4つです。

  1. 収縮能
  2. 拡張能
  3. 前負荷
  4. 後負荷


心臓の働きにかかわる4つの因子についてはこちらで解説しています。

これに心拍数を加えると心臓が1分間あたりに送る血液量、いわゆる心拍出量が推定できます。

心臓の器質的な障害により、この4つの因子のどれか、またはいくつかの因子が影響を受け、心臓のポンプ機能(血液を送る能力)が減ります。

心臓から出る血液量が減れば、全身の血液の流れが低下します。

心不全という言葉は、心臓が完全ではない、つまり心臓が充分に働かないという意味ですから、心臓の機能が落ちた状態は広い意味では心不全であると言えます。

AHA/ACC心不全ステージ分類

AHA/ACC心不全ステージ分類をご存知でしょうか?
この心不全ステージ分類は、心臓の機能低下の程度を病期に分けたことで心不全を非常に分かりやすく示したものです。

心不全ステージ分類は、こちらのサイトで大変分かりやすく紹介されています。
心不全の病期・ステージ分類|院長コラム|東京都新宿で高血圧・心臓疾患でお悩みの方はゆみのハートクリニック

この心不全ステージ分類で大事なのは

  1. 心不全は進行する病気であり最終的には死を早める
  2. 心不全の症状が出ないような高血圧(ステージA)や心房細動、心筋梗塞(ステージB)などの発症時から既に心不全の世界に足を踏み入れかけている
  3. 一度でも心不全を発症したら、症状が出ていなくてもステージCと考える
  4. そのため早期から治療すること、心不全のステージを進行させないことが非常に重要

というのを理解しておくことです。

心臓の機能が落ちた影響が色々な場所に現れる

身体の全ての細胞は、血液に含まれる酸素とエネルギー源を使い、生命を維持するために働いています。

そのため心臓が弱って、酸素やエネルギーを運ぶ血液が身体の隅々まで届かなくなると、様々な臓器の働きが低下します。

交通機関のマヒで物資が町や村に届かなくなるイメージです。

脳、肺、腎臓、肝臓、胃、腸、筋肉など、ありとあらゆる全ての臓器が血流低下の影響を受けます。
この中には心臓自体も含まれます。

酸素の重要性についてはこちらで解説しています。

酸素が足りなくなるということは、身体の細胞や臓器にとっては一大事であり、非常に負担がかかる事態です。

特に脳や心筋などは非常に大量の酸素を必要とする上、酸素不足に弱く短時間の酸素不足でもダメージを受けやすい臓器です。

心臓の機能低下で循環血液量が著しく減って生じる重要臓器の酸素不足により、脳死心室細動(VF)や心室頻拍(VT)などの致命的な事態が引き起こされたり、多臓器不全(MOF)となったりします。

心臓の機能が落ちてうっ血が起こる

また心臓から出る血液量が減ると、血液の流れがとどこおり、血管や組織の各所で血液の渋滞(うっ血)が起きます。

渋滞がひどくなると、血管の壁から水分がしみだして血管外の組織にも水が溜まり始めます

この結果生じたむくみを浮腫(ふしゅ)といいます。

心不全の症状には、手足のむくみや肺のむくみ、消火器のむくみ、顔のむくみ、心臓のむくみ(心拡大)などがありますが、これはその部分で血液が渋滞したり、外に水分が漏れ出したりしているということです。

むくみがひどくなると、むくんだ部分の働きは落ちてしまいます。

(ただし全てのむくみが心臓が原因で起こるわけではありませんので、一般の方は自己判断せず早めに循環器の医師などに相談して下さい。)

左心不全

全身へ血液を送る大動脈に繋がっている左心房や左心室の機能が落ちて心不全になったものを左心不全といいます。

左心房や左心室の働きが落ちると、その前にある肺の血管が渋滞してむくんだ、いわゆる肺うっ血の状態になります。

また毛細血管まで十分な血流が届かなくなるため、

  • 手足が冷たくなる(末梢冷感
  • 脳血流が落ちる(めまい、冷汗などの中枢症状
  • 腎臓の血流が落ちる(尿量減少

などの症状が出現することもあります。

肺うっ血

肺の血管のむくみは酸素の取り込みを阻害したり、息切れを強めます。
これが肺うっ血という状態です。

普段の肺では、

  • 空気が運ばれてくる肺胞
  • 血液が運ばれてくる毛細血管

が隣り合っており、
ここで酸素が血液中に取り込まれます。

しかし、肺うっ血の状態になると血管から水がしみでて、肺胞と毛細血管の間に水が入り込みます。

酸素は水に溶けにくく、肺胞から毛細血管の間で起こる酸素の移動が難しくなります。

こうして、むくみの出た肺では酸素の取り込み能力が落ちます。

すると血液中の酸素濃度が減少して、全身の臓器で酸素不足が起こりやすくなり、多臓器不全の一因となります。


パルスオキシメーターなどで測るSpO2の値は、このガス交換がうまくいっているかどうかを知るためのものです。
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SpO2が90%を下回ると、肺血管の攣縮(れんしゅく)が起こり、肺の血管抵抗が上がります。

すると、さらなる肺うっ血や肺高血圧が起こって酸素取り込みが低下するという悪循環が出来上がります。

心源性ショック

左心不全が重度になると、血圧が著しく低下して脳や心臓、腎臓などの重要臓器に血液が届かなくなる、いわゆる心源性ショックに陥ります。

心源性ショックでは脳死や心停止などの生死に関わる状態になりますので一刻も早い救命措置の対応が必要となります。

循環器用語ハンドブック(WEB版) 心原性ショック | 医療関係者向け情報 トーアエイヨー

腎機能低下

心臓の運命の双子といわれる腎臓は、血流が減ることで機能が低下し、この腎機能の低下で尿量の減少が生じると身体のうっ血も起こりやすくなってきます。

さらに腎臓の機能低下により老廃物排泄能の低下や貧血の進行など多彩な症状が起こり、心不全をより悪くする環境が整っていきます。

右心不全

肺に血液を送る右心房や右心室の機能が落ちて起こる心不全を右心不全といいます。

右心房や右心室の働きが落ちると、その前にある大静脈という全身から心臓に血液を戻してくる血管がむくみ、圧力が上がります。

心臓エコーでは下大静脈(IVC)の拡大や呼吸性変動の低下といった所見が現れます。

右心不全の典型的な所見

するとそこに繋がるあらゆる静脈、顔、内臓、手足の静脈がむくみます。(むくむ箇所は人によって違ったりもします。)

すると顔やまぶたが腫れぼったくなったり(眼瞼浮腫)、頸静脈という首の血管が浮き上がったり(頸静脈怒張)、お腹に水が溜まったり(腹水)、手足がむくんだり(下腿浮腫)してきます。

肝臓の浮腫

肝臓がむくんで機能が落ちると毒素の分解が出来ず、目や顔、皮膚が黄色くなる黄疸という所見が見られるなど、全身に大きな影響が出てきます。

ひどい場合は肝性脳症などが起こることもあります。

消化管の浮腫

胃や腸など消化器のむくみは、食欲や消化機能を落とし、また栄養の吸収を阻害します。

右心不全の患者さんで食欲が低下する理由の一つは消化器の問題によるものです。

栄養状態が悪くなると、様々な悪影響が生じます。

このあたりを詳しく知りたい方は、リハビリテーション栄養というキーワードで調べるのが良いでしょう。

また腸のむくみは、腸内細菌が血管内に侵入し、感染や炎症を引き起こす経路(バクテリアルトランスロケーション)にもなります。

四肢の浮腫

手足のむくみはリンパ管などの機能を落としたり、蜂窩織炎などを引き起こすこともありえます。

血流の停滞と心拍出量の低下

血管のむくみは血液の流れを阻害し、酸素と二酸化炭素の運搬が低下します。すると身体の各所でさらなる酸素不足やアシドーシスが起こってきます。

また、右心不全は全身の血液循環が滞った状態ですので、右心房や右心室に帰ってくる血液量が減ります。

すると右心室から肺の血管を通じて左心房・左心室へ送られる血液量も減りますので、左心室は空打ちすることが多くなり、結果的に血圧が下がったり、左心不全にもつながります

機能が低下した心臓は自然と元に戻ることはない

心臓の働きが落ちると、血液の循環が悪くなり、上でお話ししたような酸素不足や二酸化炭素の貯留、血液の渋滞が起こります。

働きが落ちた心臓は、勝手に元気になって状態が改善することは、まずありません。

そのため心臓の機能低下をカバーするために体の様々な働きを使われますが、それによりさらに困った状態が起きてきます。

心臓の働きを助けようとする神経体液性因子は最終的に心臓を追い詰める

心臓の状態が非常に悪い場合は、血液循環が充分にできなくなり、やがて生命活動に支障がでてくるレベルになります。

緊急事態に気付いた身体が使うのは神経体液性因子という奥の手です。

人間やその他の哺乳類では、体内をいつも同じ状態(恒常状態)に保つために自動的に各所を調節する仕組みを持っています。

神経体液性因子とはこの自動調節能力を担うシステムのことです。

自律神経

神経体液性因子の1つは自律神経です。
自律神経は素早い対応がモットーの調節部隊です。

自律神経には身体を興奮させる交感神経と、鎮静化させる副交感神経があります。

交感神経と副交感神経は、体内や体外でなんらかの変化が起きた時に数秒から数分で各所を調節して、身体を恒常状態に保ちます。

体液因子

神経体液性因子のもう一つはホルモンに代表される体液因子です。

ホルモンといっても焼肉屋にある美味しいやつじゃなく、身体の中で分泌され、体液で運ばれて各部分を調節する物質のことです。

ホルモンの働きは強烈ですが、体液に乗って作用するため、調節は数時間から数日かけて行われることが多いです。

心不全になることで働きを強める体液因子の代表は、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)です。


Wikipediaより https://commons.m.wikimedia.org/wiki/File:Renin-angiotensin-aldosterone_system.png

心臓の働きが落ちて生命活動に支障が出ると判断された場合は、自律神経系やRAASの調節能力をフル稼働させて対処します。

自律神経は、身体を興奮させる交感神経の働きを使い、血管を締めて血圧を上げ(α神経)、心拍数を増やし、心臓の収縮力を増やします(β神経)。

また、RAASは同じように自律神経を介して手足など末梢の血管を締めて脳などの重要臓器に血液を集めようとします。

さらにRAASは、おしっこの量を減らして身体に水をためることで、心臓にたくさんの血液を返そうとします。

なぜなら心臓の筋肉には圧力がかかって引き伸ばされると、強く収縮してたくさんの血液を出す仕組みがあるからです。

これをフランク・スターリングの法則と言います。

RAASは体内の水分量を増やすことで心筋を引き伸ばしてフランク・スターリングの法則により心臓の収縮力を増し、弱った心臓の機能を補おうとするのです。

また水分量が増えれば圧力も増えますので、RAASによる水分貯留には血圧を上げる効果もあります。

また長期的には心臓に沢山の血液を溜められるよう、心臓を拡大させていくこともあります。

これをリモデリング(形を変えるという意味)といいます。

このように、心臓が血液を出せなくなると、神経体液性因子による緊急対応が始まり、一旦は状態が持ち直すこともあります。

しかし、神経体液性因子は諸刃の剣です。

言ってみれば、弱った心臓を無理矢理叩いて頑張らせるわけですから、いつか限界がきます。

心臓より高い位置にある脳に血液を送るために手足などの血管を締めれば高い抵抗圧力がかかります。

また心臓のポンプ機能を高めるために尿量を減らし水を溜めることで処理しなければいけない血液量が増えてしまいます。

その他にも炎症性サイトカインの増加など、様々な体液因子が亢進し、これらが心臓や身体中に悪影響を及ぼしていきます。

ただでさえ弱った心臓が神経体液性因子の働きにより、さらに大変な状態になるわけです。

心不全の急性増悪

弱ったロバにたくさんの荷物を引かせれば倒れてしまうのと同様に、弱った心臓にたくさんの負荷をかければ、どこかのタイミングで限界が来て転びます。

これが心不全の急性増悪という状態です。

心不全ステージはC〜Dに入ります。
つまり、もう心不全という病気から目を背けて過ごすことはできない段階です。

そしてここから心不全との壮絶な戦いが幕を開けるのです。

長くなりましたので、次回に続きます。

ではでは。

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