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酸素摂取量(VO2)を理解しよう

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酸素摂取量(VO2)は体力の指標とされます。しかし、なぜVO2が体力の指標なのか、心臓とどう関係するかをちゃんと説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。

VO2を理解することは心疾患の本質を理解し、心疾患理学療法を行う上での最重要事項です。ですので日ごろから運動療法を実施している人、心臓リハビリテーション指導士を受ける人、臨床や研究でCPXを使っている人は是非この記事でVO2について理解して下さい。

ATP(アデノシン三リン酸)

いきなりATPとか略語が出てきてすみません。でもこの言葉だけは覚えて下さい。えーてぃーぴーです。

ATPは生体内のエネルギー通貨と言われるアデノシン三リン酸という物質です。皆さんが食べたご飯とか脂肪とかポテチとかを体の中で分解・反応させていき、ミトコンドリアの中で最後に酸素を加えるとATPが出来ます。

ATPは高エネルギー物質で、ATPが分解されるときにたくさんのエネルギーが放出されます。生命活動は全てこのATPから放出されるエネルギーを使って営まれています。

人間を構成する一つ一つの細胞が生きて活動していくためのエネルギー源、それがATPなのです。脳、心臓、肺、筋肉、皮膚に至るまで全てATPによって維持され、動作しています。

ATPがなければ細胞が動かなくなりますし、最悪死にますので、ATPは細胞のご飯みたいなものだと言えます。人間がご飯を食べなければ餓死するのと同じです。

しかしATPは貯めておくことができません。炊いたご飯がすぐダメになるようなものです。

なので、使う場所(細胞)で作り続けるしかないのです。

そのための材料を基質といい、主に食べ物を分解してできる糖や脂肪が基質にあたります(上で言ったご飯とかポテチなどを分解したものです)。

この基質は脂肪やグリコーゲンなどの形である程度細胞に貯めておくことができますが、酸素は貯めておくことができません

そうですよね?息を吸ってそのまま我慢しても酸素が身体に溜まるわけではないので、すぐ苦しくなってしまいます。

そのため酸素は常に細胞に送り届けられている必要があります。酸素は肺で取り込まれて血液に乗り、心臓のポンプで血管を伝わって身体中に運ばれています。

この酸素を運ぶ経路を酸素搬送系といいます。

酸素搬送系で身体中の細胞に酸素を届け、それを使って細胞がATPを絶え間なく作り続けること、これこそが生命活動の源なのです

VO2測定はATP測定

ATPのほとんどは酸素(O2)と反応して作られます。なので、身体の中で使われた酸素の量(O2)を測れば使われたATPの量が分かるというわけです。

1分間あたりに消費された酸素の量をVO2といいます。VはVolume(量)の頭文字、O2は酸素です。本当はVの上に1分間あたりの量を表す・という記号が付きます。

VO2の測定には、吸った息(大気)に含まれる酸素の量と、吐いた息(呼気)に含まれる酸素の量の差を計算する方法が使われます。これを呼気ガス分析といいます。

安静時のVO2が基礎代謝量です。基礎代謝量とはその人の全身の細胞の生命維持活動に必要なエネルギー(ATP)量です。

では運動させながらVO2を測定したら?

そうです!これが心肺運動負荷試験(CPX)で行われるVO2測定なんです。

CPXで測定されるVO2は全身の細胞が運動負荷+基礎代謝で利用しているATP量で、運動で使われたエネルギー量とほぼイコールです。

運動時のATPはほとんどが筋肉で使われる

運動時のATPのほとんどは筋肉が使っています。骨格筋、心筋、呼吸筋などです。

ATPをたくさん使える(VO2が高い)のは体力があるということです。なぜなら多量のエネルギーを使う負荷に耐えられるからです。

逆にちょっとのエネルギーしか使わない程度の負荷でダウンする人は体力がないということです。

つまり人体を動かすためにその人が最大使うことのできるエネルギー量を調べるのがCPXの大きな目的であり、VO2が体力の指標と言われるゆえんです。

peak VO2はCPX中のVO2の最高値、つまり消費エネルギーの最大値なので、その人に体力がどれだけあるかを示す値、ということになります。

Fick(フィック)の理論式

VO2がどういうものか、なんとなくわかっていただけたでしょうか?ではここで一番大事な式をお伝えします。

心臓の能力が体力と関係することを示すFickの理論式というものです。これが理解できればVO2マスターまであと一息です。

Fickの理論式

酸素消費量 = 一回拍出量 × 心拍数 × 動静脈酸素較差

(VO2 = SV× HR × a-vO2diff)

酸素消費量は、心臓が一回に出す血液量1分間あたりの心拍数に大きく依存するということを表す式です

あ、ちょっと!まって!帰らないで!戻るボタン押さないで!

この辺の専門用語が出てくると脳が拒否し始める気持ちはよく分かりますが、噛み砕いて説明するのでもう少しだけお付き合いください。

酸素消費量(VO2 )

これはまさしくはじめの方で説明した通りで主に筋肉が使うエネルギー量(ATP量)のことです。でもここで大事なことをいいますよ。

VO2は筋肉が必要とするエネルギー量(骨格筋の酸素需要)なんです。

筋肉に頑張る力がない場合、そんなにたくさんのエネルギーは必要になりません。例えば100kgのものを運べる人は10kgのものを運べる人よりも多くのエネルギーを消費できます。

逆に言えば筋力が弱い人は絶対にVO2が大きな値になりません。それは骨格筋が多くの酸素を必要とするほど頑張れないからです。

つまり筋力があることが高い負荷の活動に抵抗できるための必須条件となります。

筋肉の生み出す酸素需要があってはじめて心臓が頑張りはじめる右辺の式で酸素需要を満たすように心臓などで調節が行われる)ということです。

このようにFickの理論式における左辺のVO2は骨格筋の酸素需要だと考えてもらうのがこの先の理解にとって大変重要となります。

一回拍出量(SV)

一回拍出量(SV: Stroke Volume)とは、心臓のポンプ能力の強さを示すものです。心臓病などにより弱った心臓は1回の心臓の収縮でたくさんの血液を出すことができません。

どれだけ筋肉が強くても心臓の能力が低ければ筋肉に酸素が十分送られず、筋肉が負荷に耐えるだけの必要なATPが不足し、VO2が大きな値にならない(体力がない)ということになります。

心臓が悪いと体力が落ちる、というのはこういう理由によります。

先ほどの例で言えば、100kgの物を運べる筋力のある人でも、心臓が弱っていて一回拍出量が少ない場合は、筋肉が必要とする酸素を送り切れず途中でへばってしまうため、100kgの物を運べなくなる、つまり体力が落ちるということです。

心拍数(HR)

心拍数(HR: Heart Rate)は1分間にどれだけの速さで心臓が収縮しているかを示すものです。

一回拍出量が一歩の大きさとすると、心拍数は1分間に何歩歩いているかに相当します。

一歩の大きさが変わらなくても歩数が多くなれば歩く速度は速くなります。

これと同様に心拍数を増やすことで1分間あたりに心臓から出る血液の総量(心拍出量)を増やすことができます。

基本的には嫌気性代謝閾値(AT)を超えたあたりから一回拍出量は増えなくなるか減り始めると言われています。
ですのでATを超えた後の心拍出量は基本的に心拍数の上昇に依存します。

これはAT以降のVO2の上昇は心拍数に依存する割合が多いということでもあります。

また弱った心臓でも心拍数をその分増やすことで、ある程度送れる血液量を増やすことができるため、心臓の機能が落ちている人では心拍数が安静時から増加していることもあります。

心拍数は増えすぎると左心室に血液が充分溜まる前に次の心拍を打つことになるため、空打ちが増えて一回拍出量が落ちてしまいます。

特に弱った心臓の場合は心拍数が多くなりすぎると容易に一回拍出量が落ちますので注意が必要です

このようにVO2を上げるためには心拍数が上がらないといけませんが、心拍数が上がりすぎると逆にVO2が上がりにくくなるという矛盾も出てきます。

もう一つVO2が上がらなくなる要因として徐脈があります。

徐脈のように1分間に50回以下と心拍数が非常に少なくなる場合も、一回拍出量では心拍出量を補い切れなくなるためVO2は低下します。

このようにVO2には心拍数と心拍数による一回拍出量の変化が関与します。

心臓の機能についてはこちらで詳しく説明しています。

動静脈酸素較差(a-v O2 diff)

動静脈酸素較差(a-v O2 diff)とは動脈を流れる血液(動脈血)と静脈を流れる血液(静脈血)に含まれる酸素の差のことです。

動脈血に含まれる酸素を100とすると、静脈を静脈血に含まれる酸素は安静時では75になり、通常では約25%の酸素が末梢組織に配給されています

これは赤血球のヘモグロビンがもつ酸素を掴む手の数と関係しています。

ヘモグロビンの手は4本あり、1本の手が1つの酸素を持って出発します。

4つの酸素を持って出かけたヘモグロビンは、基本的に末梢で1つの酸素を手離して3つの酸素を持った状態で帰ります。つまり25%が末梢組織で使われます。

末梢組織の温度が高い場合、末梢組織のpHが低い(酸性度が高い)場合、末梢組織の酸素分圧が低い場合などは、ヘモグロビンが離す酸素の量が増えます。

運動すると末梢の温度が上がり、酸性度が上がり、酸素分圧が下がるのでヘモグロビンから酸素がより多く離れるわけです。

最大では75%の酸素を末梢で放出することができると言われています。

このようにして末梢の環境に応じてヘモグロビンから必要な酸素を取り込んだ結果、動静脈酸素較差が大きくなる、つまりVO2の増加が生じます

詳しく知りたい方はこの資料を読んでみて下さい。よくまとまっていてわかりやすいです。

http://edwards.jp/jp/wp-content/uploads/2014/10/ecce_svo2.pdf

また、動脈血の酸素量が減ると、使える酸素の絶対量が減ります。

例えばCOPDなどの肺疾患心不全による肺水腫、先天性の心疾患などで新鮮な酸素と触れ合う血液量が減ると、動脈血に含まれる酸素の量は減ります。

また赤血球の奇形でヘモグロビンの手の数が少ない場合、貧血があってヘモグロビン自体の数が少ない場合なども、動脈血に含まれる酸素の量は減ります。

こういう病態がある場合は、そもそも血液に含まれる酸素量が少なくなるため、動静脈酸素較差は必然的に低下することになり、VO2低下の要因になり得ます。

心臓が弱ると体力が落ちる

心臓が弱るというのは主に一回拍出量が減るということですが、心臓病により体力が落ちるというのは、心臓が弱ることで酸素を筋肉に十分運ぶことができず、エネルギー不足が生じて負荷に耐えられない状態になるということです。

ただ、先ほども述べたようにそもそも筋力が弱っている場合は心臓とは関係なく負荷に耐えられないということになります。

患者さんの体力低下(VO2が低い)ことが、心臓のせいなのか、筋力が弱いせいなのか、その両方なのか、はたまた肺の病気や貧血といった別の疾患が関係しているのかを考えていくことは非常に重要です。

そのために患者さんの心臓の機能(心機能)の判断や、その他の病気が関与しているのかを把握しなければなりません。

これは心臓のエコー検査や血液検査、筋力測定など様々な所見から判断していくことになります。

それについて話すとさらに長くなってしまうため、このあたりの判断方法については別の記事で述べていきますのでそちらをご覧下さい。

おすすめ書籍

循環器疾患のリハビリテーション

少し古い本ですが、循環器疾患のリハビリテーションはこのあたりの考え方を非常に端的かつ分かりやすく理論的にまとめてくれている名著です。

VO2についての理解やCPXについての理解だけでなく病態の理解も含めて、この本を理解すればかなり高い次元で運動療法というものを理解することができるようになります。持っていない人は是非手元に一冊置いておくと良いですよ。

CPX・運動療法ハンドブック

CPX中の生体反応やそこで起こったことをどう評価するかはCPX・運動療法ハンドブックが詳しく基本的な一冊になります。

実際にCPXを行う場所などに置いておいて、解釈に困った際や考え方のヒントを掴みたいときのために辞書のように使うとよい本です。 

運動療法の指針 第8版

また、運動処方の指針は心疾患運動療法の本場アメリカにおけるスタンダードな一冊です。

心リハ太郎が始めて買ったのは第6版でしたが今は第8版が最新版です。

心疾患だけでなく、健常人、高齢者、糖尿病など様々なケースにおいて運動療法、運動負荷試験を行うにあたっての基礎的事項が網羅されており、各患者に対する運動処方の章もありますので、非常に参考になります。

トレッドミルのプロトコールの説明やVO2の説明なども記載されており、CPXや運動処方を行う際にはできれば手元に置いておきたい一冊です。 

まとめ

この記事ではATPの重要性とFickの理論式を用いてVO2が生命活動や運動にどう関わるか、また心臓やその他の機能がVO2にどう関わるかをお話ししました。

この記事が、読んだ方のVO2についての理解を深め、臨床に活かす手助けになると幸いです。 

特にFickの理論式は思わぬところで役立つ最強のツールです。是非頭の中に叩き込みましょう。

ではでは。