心臓リハビリテーションのまにまに

心臓リハビリテーションを10年以上している心リハ太郎が日々考えたり思ったりしているエビデンスのあることないことをつらつらと書いています。

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貧困と疾患

こんにちは、心リハ太郎です。

最近、臨床で若い方の心筋梗塞や心不全を経験することが増えてきました。
しかも症状が出現して時間が経ってから受診する方が多く、重症化しているケースが多いのです。

このような若い方に共通するのは、喫煙や高血圧、糖尿病、肥満などの心疾患のリスク因子以外に、非正規雇用者や独身者であるという社会的なリスク因子を持っているということです。

非正規雇用者は雇用形態から医療に使うための金銭的余裕がなく、また夜勤なども多いため時間的な余裕もない方が多いという印象です。

また独身者は、家族からの物質的・精神的サポートも得られにくいため病気の管理が難しくなったり、守るべき配偶者や子どもを持たないためか人生がどうなっても構わないというような態度を取る方が多いようにも思います。

このブログでも以前から貧困や独身者の心疾患発症率の高さについて書いており、現代の日本では非正規雇用や独身の中高年が増えていることを考えても、恐らく今後は若年発症者の疾病管理を困難にする因子として貧困や独身といった社会因子の関与が強まるのではないかと個人的には考えています。

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この貧困などの社会因子の具体例をまとめた書籍が『健康格差 あなたの寿命は社会が決める (講談社現代新書)』です。

この書籍の第1章が日経ビジネスオンラインで公開されています。

全世代に忍び寄る「健康格差」の厳しい現実:日経ビジネス電子版

心臓リハビリテーションに関わる方は、今後自分たちが関わる患者さんの社会的な貧困(金銭面だけでなく人間関係なども含めた余裕のなさ)に苦しむ人が増えてくる事を今のうちから知っておくべきでしょう。

一部引用してみます。

みゆきさんは、非正規雇用の労働者として、主に工場での検品を中心に職場を転々としながら15年間働いてきた。夜勤と日勤を繰り返すような不規則な働き方だったため、食事は買ってきた弁当で済ますことが多かったという。1日12時間労働になることも多く、疲れ切って家につく毎日。次第に食べることだけが、ささやかな楽しみになっていった。帰宅すると、500mlのビールとともに、弁当は少なくとも2パックをかきこむ。

「家に帰っても誰もいない。もし誰かがいれば、料理を作る気にもなるんですけど、自分だけのためだったら、ただお腹を満たせればいいだけっていうか。食べたらなんかすっきりするし。まあ、ストレス解消みたいに考えていましたね」

 雇用が不安定だったことから、いつ仕事をクビになるかわからないという精神的なストレス。友人たちも、次々に結婚、出産し、ライフスタイルが異なってしまったことから知らず知らずのうちに疎遠になってしまう。そうしたストレスの解消が、すべて食べることに向かってしまった。

 みゆきさんの乱れた食生活。それを指摘される機会にも恵まれなかった。短期契約の仕事が中心だったため、法律で定められている定期健康診断の対象にならなかったためだ。

 このような生活を20代から続けること10年。36歳の時、ふと首が痛いと感じて訪れた病院で、みゆきさんは、いきなり「糖尿病」と診断される。医師からは定期的な受診を勧められたが、糖尿病の初期段階はほとんど自覚症状がないため、治療の必要性をそれほど強く感じなかったという。

みゆきさんはこの後、糖尿病性網膜症による視力低下や腎機能低下により、日常生活に支障をきたす状態になっていきます。

我々は、このような社会的貧困に置かれている人々が、なぜこのように重症化するまで病気を治療できなかったのか、なぜ今後の病気の管理が難しいのかなど、その人のバックグラウンドを理解した上で、どうすれば少しでも病気の管理をうまく行うことができるようになるのかを考えねばなりません。

そういう意味でも今回の記事は心臓リハビリテーションに関わる方々にとって読む価値があると思います。

書籍も非常にためになると思いますので、ご興味のある方は是非ご一読を。