心臓リハビリテーションのまにまに

心臓リハビリテーションについて考えたり思ったりしていることをつらつらと書いています。

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ドベネックの桶(おけ)の考え方を使うと人間の能力というものを把握しやすい


こんにちは、心リハ太郎です。

みなさんはドベネックの桶(おけ)という考え方をご存知でしょうか?

もともとは、植物を育てる時の考え方なのですが、心臓リハビリテーションでも非常に使える考え方ですので、ご紹介したいと思います。

ドベネックの桶とは

冒頭の写真のように、何枚もの板を貼って作られた桶は、どこかの板が短ければその高さまでしか水を貯めることができません。

19世紀にリービッヒというドイツの有機化学者が、植物は生育に必要な因子のうち、何かが制限された場合、その因子が成長の上限を決めるというリービッヒの最小律を提唱しました。

この理論をわかりやすくしたのがドベネックです。

ドベネックは、桶の板をそれぞれ必要な因子に見立て、どこかの板が短ければそこが植物の成長の上限を決める制限因子となる、という図を作成したのでした。

File:Minimum-Tonne.svg - Wikimedia Commonsより

もちろん、ある因子がほかの因子に影響を与えることもあるので全くこのまま使える場面ばかりとは言えませんが、大まかに物事を理解するにはドベネックの桶は分かりやすい考え方の1つです。

そのため、植物の分野だけでなく、栄養学や会社組織の人材など、幅広い分野でドベネックの桶が活用されています。

ドベネックの桶は複数の因子が関連する事柄を考える際の基本的な考え方

ドベネックの桶の考え方は複数の因子が関与する事柄を理解するために様々な分野で応用できます。

もちろん心臓リハビリテーションも例外ではありません。

運動耐容能を考える場合

例えば心肺運動負荷試験(CPX)の体力の指標であるpeak VO2が低下していたとします。

ものすごく大きく分けると運動耐容能には、呼吸器、循環器、骨格筋の3つが関わります。

ワッサーマンの歯車で理解した方が正確ではありますが、専門的になるほど患者さんや非専門職が理解するには難しいこともあります。

そういう場合は、ドベネックの桶の考え方を使えば、肺でも、心臓でも、筋力でも、どこかに弱いところがあれば板の高さが低くなり、体力が落ちるということを理解しやすくなります。

例えば、心機能が意外と悪くなく、筋力が低いことが体力低下の原因と考えられる場合は、その板を運動療法で補って高くすることで、体力を改善する、というような感じです。

実際は運動耐容能に関係する因子には、貧血やミトコンドリア機能や血管機能など様々あるので、そういうことがわかっている場合は、桶の板の数が増やせます。

するともっと正確な理解ができるようになります。

心不全の管理能力を考える場合

心不全の管理の成否には様々な因子が関与しますので、ドベネックの桶の考え方を応用するのは面白いでしょう。

関連する因子には、例えば理解や実行に関わる認知機能、モチベーションに関わる抑うつ、手伝ってくれる人がいるかどうか、病気の説明をしっかり受けているのかどうか、適応障害のような自分の置かれた状況にうまく適応できない人である、などがあります。

また心不全増悪因子なども同様です。

心不全増悪因子には、服薬忘れや塩分の摂り過ぎ、水分の摂り過ぎ、過活動、過度安静、感染、アルコール、貧血、不整脈、ストレスなどがあります。

これらを桶の板に見立てると、どこの板が低いかを考えるきっかけになり、その板を高くするためには何をしなければいけないかが分かるようになります。

そして、疾病管理指導もその部分を中心に行えば、効率的かつ効果的にすることができるようになります。

ドベネックの桶の板の数は自分の使う桶の品質を決める

ドベネックの桶を使うときには、自分が見たい事柄に関係しうる因子をたくさん理解しているほど、説明がうまくできるようになります。

つまり関係する因子として自分がいくつの事柄を挙げられるかどうかで、たくさんの板が張られたよい桶か、板の数が数枚しかないできの悪い桶かが変わってくるということです。

ですので、日頃から自分の仕事に関係する事柄については、その事柄にさらに何が関係するのかについて調べたり考えておきましょう。

ドベネックの桶の中にもう1つの桶を作らねばならないケースも

ちなみにリービッヒの最小律とドベネックの桶は物事を理解しやすくする考え方であって、必ずしも解決に導いてくれるとは限らない場合も多いです。

例えば心不全の貧血は、腎機能が悪い場合や栄養素が足りない場合、何らかの病気が関与する場合など様々です。

心不全で貧血だとすぐ腎機能がみたいな考え方をする人もいますが、当然全てが腎臓で説明できるわけではなく、この場合、本当の理解に至るためには貧血に関するもう1つの桶を作らなければなりません。

人間とは、様々な因子が関与して生命活動を行なっている複雑な生体システムであり、1つの出来事を説明するのに1つの原因だけでは説明しきれない場合がとても多いです。

そのことを理解し、忘れないようにするために、このドベネックの桶の考え方を心の片隅に置いておくとよいかと思います。