心臓リハビリテーションのまにまに

心臓リハビリテーションについて考えたり思ったりしていることをつらつらと書いています。

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離床と運動療法はどう違うのか、そして離床のリスク評価はどうやってするか


皆さんは離床と運動療法の違いって意識したことありますか?

理学療法士などのリハビリ職種による歩行やADL練習などは全て運動療法と言えるのでしょうか?

それとも離床と運動療法には何か違いがあるのでしょうか?

離床と運動療法を区別することができるようになると自分やリハビリ職種のしていることが何の目的でしていることなのか、それは今すべきことなのかどうかが判断できるようになります。

また離床と運動療法ではリスク評価の大元の判断基準が異なることがわかると、むやみに怖がって寝たきりにさせたり、逆に何でもかんでも動かしたり運動させたりして無駄な危険を冒すことがなくなります。

すると、患者さんの無駄な臥床を避けたり、自分のしていることが治療としての運動療法なのか、それともただ起こしているだけの離床なのかを判断することができるようになります。

では始めましょう。

離床と運動療法の違い

急性期の心臓リハビリテーションに携わり始めた頃、私は離床と運動療法の区別がついていませんでした。

心臓病で入院したばかりの人を歩かせるとかホントに怖い、と思っていました。

当時私に臨床を教えてくれていた方が、「離床と運動療法は違うんだよ」と言っているのを聞いて、その時初めて離床と運動療法の違いについて意識しました。

離床とは病気であってもする行動

私たちがインフルエンザにかかってしまい、寝込んだとしましょう。高熱で身体が痛くて意識も朦朧として動くに動けない辛い状態です。

でもこんな状態であってもトイレくらいはいきますよね?食事をとったり水を飲むため、薬を飲むために身体を起こしたり、場合によっては食卓や台所まで歩いて行ったりもしますよね?

これが離床です。
離床とは、例え病気があっても最低限これくらいはするだろうというレベルの活動を行うことを指し、離床できない場合、寝たきりということになります。

離床しないリスクと離床するリスク

早期離床が推奨される理由の一つにADL(日常生活動作)低下の予防が挙げられます。これは普段している最低限の動作すら行わないと、人間の身体は筋肉も循環器も中枢機能も想像する以上のスピードで衰えていくためです。

若年者で2-3日の臥床期間であれば衰えが戻るまでにはそれほど時間はかかりませんが、高齢者で臥床期間が3日を超えてくると、人によっては入院中には元に戻すのが難しくなることもあります。

ですので、必要以上の安静臥床はむしろリスクの高い選択だと考えるべきなのです。

しかし逆に離床させると病態が悪化する危険性が高い場合には離床を控えねばならないこともあります。

安静によるリスクと離床することで生じるリスクを天秤にかけ、離床させるべき人は積極的に離床させ、離床させない方がいい人は離床を見合わせる判断基準を持つことが重要です。

このように心疾患の離床や運動療法についてはリスクを考慮することが重要となります。このリスクとは動かすことで起こるリスクだけでなく、動かさないことで起こるリスクも含みます。

リスク評価できないのに患者さんを動かす怖さを感じない人は最も危険ですし、逆に過度の恐怖感からむやみやたらに患者さんを臥床させる人も実は危険だということです。

心疾患をもつ患者さんを離床させることを怖がる医療者、猫も杓子も離床させようとする医療者のどちらもが問題となりますが、その理由は両者ともリスク評価の方法を知らないということです。

このような評価基準を知らないままにしておくことこそが臨床では大変リスクの高い選択なのです。

運動療法は病気を治療するためのもの

運動療法とは薬物療法・食事療法などと同じように「療法」という言葉が入っていることから分かる通り、治療法の一つです。

運動を用いた治療法、それが運動療法です。

心臓や血管の病気(これらを合わせて心血管疾患といいます)の人が運動療法をするの最大の目的は、長期予後、つまり寿命や健康寿命の改善や人生の質(QOL)の改善です。

心血管疾患になってしまった患者さんが、運動という治療をすることで、より元気に長生きし、人生を楽しむことができるようにすることこそが運動療法の最大の目的なのです。

入院治療や安静などで廃用症候群が進んでしまい、歩くのが困難になったり息切れが強くて動けなくなるなど日常生活にも支障をきたしている場合は、ADLの改善、息切れなどの臨床症状の改善なども運動療法の目的になります。

しかしその場合も、結局は長期予後やQOLをできる限り改善することに繋がっていきます。

離床や運動療法に関わる看護師さんや理学療法士さんには、長期的な視点を持って欲しいと思います。

離床の可否を判断する方法

病気で入院した患者さんの離床を始めていいかどうかは、医学的治療で病気がある程度よくなったか、そして離床が病気を悪化させないかを考えて判断します。

病気が落ち着いていないのに無理に離床を進めることは、医学的治療を無効にしたり、場合によっては病気を悪化させるリスクを伴います。

離床しないリスクと離床するリスクを天秤にかけ、離床するリスクの方が高い時は一時的に勇気ある撤退を考えましょう。

ここではそのための考え方の基礎をお伝えします。

心疾患や大血管疾患における離床制限

重篤な心疾患や循環器疾患、例えば心筋梗塞発症直後、人工呼吸器管理やIABP(大動脈バルーンパンピング)管理・強心薬投与の必要な心不全、解離性大動脈瘤急性期などではまず絶対安静にして治療を優先し、状態が安定するのを待つ期間があります。

この場合、命を救うことが治療の最大の目的になるため離床は著しく制限されます。離床するだけで重篤な状態になりうる時は離床もしてはいけないのです。

離床してはいけない時

上でも少し書きましたが、離床をしないほうがいい時は例えば次のような時です。

  • 心筋梗塞超急性期(発症から48時間以内)
  • 心原性ショック状態
  • 治療しても心不全状態が悪化していく時
  • 人工呼吸器挿管中
  • IABP(大動脈バルーンパンピング)
  • PCPS(経皮的心肺補助装置)
  • ノルアドレナリン投与中
  • カテコラミン多量投与中(4γ以上)
  • 急性大動脈解離発症直後

などです。
挙げだすとキリがないですが、生死の境をさまよっている状態だと考えてもらうとよいでしょう。
このような時は基本的にはまず救命治療を行うべきで、離床することでその治療を妨げることは避けなければなりません。

最近は人工呼吸器挿管中やIABP使用中に離床を進めるような病院も海外を中心として国内にもいくつかあるようですが、それがよいかどうかについてはまだしっかりとしたエビデンスは出ていませんので、どうしても必要な場合で状態が落ち着いているケースを除いては、上に書いたような場合は離床を避けるのがよいでしょう。

気をつけたほうがよい心筋梗塞と大動脈解離

上で挙げた例の中で気をつけたほうがよいのは、心筋梗塞大動脈解離です。

心筋梗塞や大動脈解離では初期治療により命の危機を感じるような強烈な胸痛や背部痛が改善すると、患者さんはケロッとして治ったような気になりますし、医療スタッフも症状もないから大丈夫なんじゃ?と思いがちです。

しかし、心筋梗塞や大動脈解離は発症部位が破裂したり重篤な合併症が起きた場合、急激に死に至る可能性のある病態です。

発症から1週間程度は発症部位の組織がもろくなっており、特に急変する危険性が高い時期になります。そのため、心筋梗塞と大動脈解離では症状がなくても安静期間が長めに取られています。

恐らく皆さんの病院でも心筋梗塞と大動脈解離には厳格な安静期間が設けられているはずですが、あなたがその時期に起こりうるリスクについて意識したことがなかったとしたら、今日からはそのリスクを意識するようにしましょう。

この時期は症状がないのが当たり前であり、もし症状が出はじめた時には取り返しのつかない事態になってしまっていることもありえます。

ですので、心筋梗塞や大動脈解離の合併症にはどんなものがあり、どういう所見が現れるのかについて知っておくことは、急性期の医療スタッフにとっては必須と言えます。

その場合は離床にストップをかけなくてはならない可能性が高いです。

心筋梗塞や大動脈解離の合併症についてはまた後日別稿で書きたいと思います。

安静の強制には説明の義務が伴う

また、安静指示を理解できない患者さんの多くは、「この病気はなぜ症状がなくてもしばらく安静にしなくてはならないのか」という説明をしっかりと受けておらず、自覚症状がないからもう動いて大丈夫と考えています。

身体的には自分で動ける人間を強制的に安静にさせるというのは、実際には人権に関わる問題ですので、医療者にはなぜ安静にしなければならないか、どのくらいの期間安静にしなければならないかを説明する義務があります

自分が考えているより病気が重篤であり、安静は自分の命を守るためだということが理解できれば、大抵の患者さんは納得してくれるはずです。

離床可否を判断するための段階的負荷試験

心血管疾患を発症したばかりの人をどこまで動かしてよいかについては、基本的に段階的負荷試験を行いながら決めていきます。

段階的負荷試験とは例えば

  • ギャッジアップ
  • 端坐位
  • 立位・足踏み
  • 50m歩行
  • 100m歩行
  • 200m歩行

のように段階的に負荷強度や負荷時間が増えていく運動試験のことです。

距離で段階を設定している場合もあれば、1分・2分など連続負荷時間で段階を設定している場合もあります。

ある段階の負荷をかけ、心拍、血圧、自覚症状(浮遊感、息切れ、胸部症状など)、他覚所見(四肢末梢冷感、顔色不良、冷汗など)などに異常がないかを確認し、翌日にも合併症の出現などの異常所見がないかを確認した上で問題がなければ次の段階へ進みます。

この負荷試験を運動療法と捉える人もいますが、実際には離床拡大可否の判断をするためのものであり、身体機能を向上させるという目的が果たせるほどの負荷強度・負荷時間にはなりませんので、どちらかといえば離床の範疇に入ります。

ただし、この負荷試験中の心拍血圧反応や息切れ・疲労感などの生体反応を、各種検査から読み取れる病態・重症度と結び付けながら、自分の目の前で起きている生体反応には問題がないかということを判断し、今後運動療法を行う上でのリスク評価を同時に行うことができますので、全く運動療法と関わりがないわけではありません。

この判断を漏れなく正確に、かつ目の前で起こっていることをどう検査所見や病態と矛盾せずに説明できるかどうかが、医療者の技量ということになります。

心機能などの評価についてはこちらで紹介していますので参考にしてみて下さい。



安静度の拡大は、クリアした負荷段階に応じて上げていくのが一般的です。例えば立位・足踏みの負荷がクリアできればベッドサイドの活動はOK、50mの負荷がクリアできれば病室内の活動はOKみたいな感じです。

安静度拡大が許可された活動までは病棟でも患者さんに積極的に行って欲しい活動です。

看護師さんが負荷試験の中心になっている病院もあれば、理学療法士が中心になっている病院もあると思いますが、いずれにしてもどこまで安静度が拡大されているかの情報を共有し、できる限り離床を進めていくことが重要です。

運動療法

心血管疾患における運動療法の基本は20〜30分以上行う長時間の有酸素運動です。長時間の運動を行なっても問題ないかどうかは、目的とする運動が嫌気性代謝閾値(AT)を超えないかどうかで判断します。

また近年は運動療法におけるレジスタンストレーニングの重要性も叫ばれていますが、積極的なレジスタンストレーニングは血圧を上げるなどのリスクも大きく急性期に行うことは難しい場合も多いため、今回は軽く話すだけに留めます。

心肺運動負荷試験と有酸素運動

ATの判別には基本的に段階負荷試験の最後に行う心肺運動負荷試験(CPX)を用います。このCPXではATまでに心筋虚血や不整脈が生じないかも同時に確認します。

AT強度までの安全性が確認できれば、長時間の運動療法を行なってもリスクは低いと判断し、離床から運動療法へのギアチェンジを行います。

それと同時に日常生活への復帰が可能となったとも考えられるため、安静度制限を解除することも検討できます。

ただATが2METs前半の場合は、体力が低すぎて有酸素運動を積極的に行なっていくのは難しいかもしれません。この場合は筋力の強化などが必要になると思われます。

ただし、心機能があまりにも悪いためにATが低下している場合や、心不全が十分コントロールできずにATが低下している場合は、薬物などの治療が優先になる場合もあります。

筋力低下の予防・改善のための運動

離床中であっても自重を用いて筋力維持のための運動を併用することが可能です。

例えば椅子でのスクワットやカーフレイズ(つま先立ち)、四股を踏むような片脚保持の運動などです。

このような運動を行う目的は、重力に抗して自分の体重を支えられる筋出力を発揮できるようにすることです。
筋出力を上げることで動作時の安定性を向上させると言い換えてもいいかもしれません。

筋出力を向上させる運動は、歩行に比べると強度が強く過負荷になりやすいため、実施の際には、もしATを超えていた場合を考慮して30秒から1分くらいで休憩を入れることがポイントです。

このような運動は廃用症候群の改善や予防、ADLの維持に役立つ程度で、レジスタンストレーニングで目標とする筋肥大を狙えるものではないため、個人的には運動療法というよりは離床の隣くらいの位置付けかなと考えています。
ただし元々廃用症候群のある場合や、廃用症候群の進行リスクが高い場合には役に立ちますし、安定性が向上すれば有酸素運動に移行することも可能になる場合がありますので、循環動態などの問題が生じないようであれば、ある程度積極的に行なってもよいでしょう。

まとめ

この記事では離床と運動療法の違いについて説明し、特に離床とはどういうものなのか、どう進めたらよいのかを解説しました。

日ごろ行っている患者さんへの関わりが、離床なのか、運動療法なのかを見直してみて下さい。

この記事がより安全かつ効果的に離床や運動療法を進めてもらえる手助けになると嬉しいです。

ではでは。