心臓リハビリテーションのまにまに

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左室拡張能(E/e')のわかりやすい(かもしれない)解説

ひと昔前は左室拡張能の指標はこれだ!というものがない時期が続いていましたが、今はE/e'という素晴らしい指標ができました。

しかし、この指標が出てきたころ、私は「なるほど、わからん」と頭の中が???状態でした。

ですので、この記事ではE/e'を含め、左室拡張能について全くわからない人がなんとなく理解できるようになるべく簡単に説明するつもりです。

 

まずは出てくる言葉を紹介

まずどうしても覚えておかないと話ができないという言葉を先に紹介しておきます。

後で急にわけのわからん言葉が出てくると頭が混乱しますからね。

こんな言葉があるんだ程度に眺めてもらうだけでOKです。

  • E波(いーは)
  • A波(えーは)
  • e'(いーぷらいむ)
  • E/e'(いーばーいーぷらいむ)

とりあえずこの4つです。なんとなく覚えましたか?

ではここから説明です!

左室拡張能はスポイトと水鉄砲を想像するとわかりやすい

まず「拡張能」という言葉が分かりにくいですよね。拡がる能力?だからなんなの?って気持ちになります。

 

拡張能とは左心室の血液吸いこみ能力のことだと考えてください。

 

頭の中で理解するときは理科で使ったスポイトを思い浮かべるとかなりわかりやすいです。スポイトの頭を潰すと潰したところが膨らむ時に液体を吸い上げます。

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これと同じことが心臓でも起こっています。左心室が収縮して血液を送り出した後、元の大きさに戻る(拡張する)時に左心房から血液を吸い上げるのです。この力を陰圧といいます。

 

左心房から左心室への血液の移動は、左心房が収縮して左心室に血液を送り込むイメージを持っている人が多いと思いますが、実はこの陰圧による血液吸いこみで移動する血液量の方が多いのです。

 

心臓というのは、血液が左心室にたくさん溜まらなければ、全身にたくさんの血液を送り出すことができません。

 

当たり前ですよね?水のほとんど入っていない水鉄砲を打っても全然水が出ていかないのと同じことです。

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左室拡張能は心エコーの発達で測定できるようになった

普通に考えたら当たり前のことなんですが、この血液吸い込み能力が、みんなが思っていた以上に重要だったことが明らかになってきたのは近年になってからでした。

 

これは心臓エコー検査の技術、特にドップラーや3次元的な解析法などが発達し、左室拡張能を評価できる方法が確立され、研究が進展したという理由が大きいです。

 

左室拡張能(血液吸い込み能力)が心機能にとって重要だということは、以前から理論的には考えられていたのですが、それを測る技術が以前は存在しなかったのです。ですので、左室肥大があるとか左室の内腔が狭そうだなとか形態的な特徴から左室拡張能が悪いかもしれないという仮説を立てるほかなかったのです。

 

それが近年のドップラー技術と解析法の発達により、心エコーでは形態的な変化だけではなく、血液の移動速度や移動量が推定・測定できるようになり、この分野が急激に発展したのです。

 

個人的には本当にありがたいことだと感じています。

左室拡張能と心不全

元来、心不全になるのは左室収縮能(EF)が悪い人だと考えられていました。これはエコー技術が未発達であったために、心不全に関連するような妥当な指標がEFしかなかったことが理由と思われます。

 

しかし、近年になって心臓の収縮能力を示すEFには何も問題がないのに心不全になる患者さんがどんどん増えてきました。

このような人の左室拡張能を、現在の発達したエコー技術を用いて測定してみたら心不全との関連が認められた、というわけです。

 

EFを重要視した考え方が中心だった時代に臨床をしていた年配の医師などには、まだ左室拡張能の重要性にあまりピンと来ていない方も多い気がします。しかし、今後の循環器における臨床では、左室収縮能だけではなく、左室拡張能やその他の新たな指標を取り入れていかないと、なぜ心臓が悪いのかを判断できないケースが増えてくるものと思われます。

とにもかくにも、上のような理由から左室拡張能は最近はかなり重要視されるようになってきたのです。

少し脱線してしまいましたので、E/e'の説明に戻りましょう。

E波とは吸いこみ速度のこと

左心房と左心室の間には僧帽弁という逆流防止弁がついていますが、この僧帽弁付近を通る血液の流速を測定したのがE波とA波です。

 

E波のEはEarly(早期)という意味です。

A波のAはAtrium(心房)という意味です。

 

左心房から左心室への血液の移動は上で説明したように2段階で行われています。

左心房から左心室への血液の移動は、左心房が収縮して左心室に血液を送り込むイメージを持っている人が多いと思いますが、実はこの陰圧による血液吸いこみで移動する血液量の方が多いのです。

この2段階の血液移動は、左心室の陰圧(スポイトのように吸い込む力)による移動(E波)と、左心房の収縮による移動(A波)です。

 

E波が大きいということは、左心室が拡張するときに陰圧で勢いよく血液を吸いこんでいるということです。たくさんの血液を吸い上げられれば、水鉄砲の説明の通り、次の心臓の収縮でたくさんの血液を出すことができますよね。

 

ですからE波が左心室の血液吸いこみ能力(拡張能)をみるための大事な値になるのです。

A波の変化は何を表すか

しかし何らかの原因で左心室の血流の吸い込み能力が落ちると、E波が小さくなります。


このとき左心房には本来なら吸い上げられたはずの血液が残ってしまっているため、結果的に左心房の収縮によって血液が左心室にたくさん移動することになり、A波が大きくなります。


これが拡張能(左室への血液移動能力)低下の第一段階です。


しかし左心房はそんなに強い筋肉を持っているわけではありません。
なので長い間この状態が続くと徐々に左心房が疲れて血液を送り出せなくなってきます。


すると左心房が左心室へ送り出す血液量が減ってしまい、A波が小さくなってきます。これが拡張能低下の第二段階です。
おそらくこの辺りから実質的な心臓のポンプ機能が低下してくるのではと思われます。

 

ちなみに、E波をA波で割った、E/A(イーバーエー)という拡張能の指標がありますが、これには4つの段階があります。

以前はE/e'はなくE/Aを見て判断するんですが、これが分かりにくいんですよ!

  1. 正常(E>A)
  2. 軽度低下(E<A)
  3. 偽正常化(E>A)
  4. 高度低下(E>>A)

数字の大小だけで見ると1の正常と3の偽正常化の違いが全然理解できません。「結局のところ拡張能が低下しとるのかしとらんのかどっちやねん!」となります。

しかし拡張能低下に伴い、心房からの血流量が次第に減ってくるということが理解できると、E/Aは理解しやすくなります。(個人的にはE/e'がまだなかった時代は本当にわけがわからなくて一時期理解することをあきらめたのは苦い思い出です。)

ともかく、拡張能がかなり悪くなると、A波の値は低くなってきます。場合によってはA波は見えなくなります。

もう一つの大事な値、e'

さて、ここで左心房と左心室の間にある僧帽弁の動きに注目してみましょう。

左心房から左心室へ勢いよく血流が流れ込むと、僧帽弁も勢いよく動きます。この僧帽弁の動きの速さをみているのがe'です。

頭の中で頑張ってイメージしてみて下さいね。拡張能(しつこいようですが左心房から左心室への血液吸い込み能力です)の良い心臓では、e'は大きく(=僧帽弁の移動速度が速く)なります。逆に拡張能の悪い心臓ではe'が小さく(僧帽弁の移動速度が遅く)なります。

僧帽弁の動きが悪いということは、物理的な血液の移動が少ないということですから、e'の値が重要になります。

e'の正常値は8以上です。8未満の場合は血液移動が阻害される何らかの原因があると考えてよいでしょう。

拡張能を示すE/e'

E波をe'で割った値がE/e'です。

僧帽弁の動きが遅くなればなるほどe'は小さな値になりますので、E/e'自体は大きくなります。

E/e'の正常値は8未満で、13を超えると心不全との関連が強くなり、15を超えると心筋梗塞後の予後が悪くなると言われています。

収縮能の指標であるEF(左室駆出率:Ejection Fraction)はビジュアル的に分かりやすいんですが、E/e'はビジュアルとして想像しにくいです。

しかし、上で説明したようにE波とe'というものがそれぞれ何を見ているのかを頭の中でなんとなく想像できるようになると、E/e'が高いと左心房から左心室への血液の流れ(=左室拡張能)が悪くなっているんだなあということがわかるようになってきますよね。

以上、簡単ですが、E/e'および左室拡張能についての説明でした。 

 

なかなか理解の難しい指標ですが、この記事をきっかけに少しでも左室拡張能やE/e'の理解が深まりましたら幸いです。

 

こちらで心機能を考えるための4つの因子について説明しています。心臓がどのような因子に左右されるのかについて詳しく知りたい方は是非ご覧下さい。

 

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初学者向けから中~上級者向けまでいくつか選んでいますので、よろしければ参考にしてください。 

 

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ではでは。